何度見たって、慣れないものは慣れない。

書類を携えて入った部屋の中、良く言えば睦まじい、悪く言えば目のやり場に困る二人を見たエレンは、切実にそう思った。

隅に置かれたソファでは、行儀良く腰掛けたルリの膝に頭を預けたリヴァイが気持ち良さそうに眠っている。

(…うわああああ…!)

もうそれしか言葉が出てこない。

出来ることなら今すぐ書類なんぞ放り投げて回れ右をし、そこら中のたうち回りたい気分でいっぱいだった。

生憎、自分にはまだこの二人の様子を笑って受け流せるほどのスキルが身に付いていないのだ。

(俺は一体どうしたら…!)

真っ赤な顔でおろおろと右往左往するエレンを見かねたルリが、そっと微笑む。

「ごめんなさい、エレン。疲れているみたいなの。もう少しだけ寝かせてあげてね」

「えっ、あっ、はい、も、勿論!」

ルリの白い指がリヴァイの髪を優しく梳くのを真っ正面から見てしまったエレンは、ますます真っ赤になりながらぎこちなく視線を逸らした。

動揺し過ぎてどうでもいい台詞が口を衝く。

「へ、兵長ぐっすり寝てますね」

「そうね。だけど、人前でも眠ったままなのはとっても珍しいのよ」

「そ、そうなんです、か」

(今ナニか聞き逃してはいけない台詞があったような…)

だがしかし、これ以上直視していたら身が保たない。

本当はなるべく急いで欲しいと言付かっていたのだが、これは不可抗力だ。

じりじり後退りながら、ぐらぐら揺れる思考の中で、エレンは今まで何度自問したか分からない問いを呑み込む。

(何でこの二人、まだ付き合ってないんだろう…本当に…)

タテヨコナナメ360度、誰が何処からどう見ても両想いなのは明らかなのに。

早いところくっ付いてくれた方が精神衛生上非常によろしい筈なのだが、現状に慣れきってしまった他の面々は解決策を見出だすどころか面白がって賭けの対象にすらしているという。

最もそれがリヴァイにバレて削がれた人間の数も相当数いるらしいが。

「…だからって、このままでいいワケがない…」

ぎゅう、と拳を握り込んだエレンは、先程とは打って変わった表情で毅然と前を向く。

(出過ぎた真似かも知れないけど…先輩たちがやらない以上、俺がやるしか道はない…!)

無駄なところで無駄な決意を漲らせるエレンに向かって、

「さっきからうるせぇんだよクソガキが」

二人きりの時間を邪魔され機嫌最悪な人類最強による非情な蹴りが発動するまで、後数秒。


迷走キューピッド


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