閉じた瞼の裏側に眩しい光が差し込んで、ふわふわと微睡みに浸っていた意識がゆっくりと覚醒していく。

ぱちりと目を開ければ、目の前には穏やかで無防備なリヴァイの寝顔があった。

あどけなささえ浮かぶその表情を堪能できるのがわたしにだけ与えられた特権だと思うと、いつだって溢れるような幸福感で胸がいっぱいになる。

目元にかかる前髪を払ってあげてから、見た目に反してやわらかい頬を撫でた。

んん、と掠れた声が零れても、まだ彼が起きる気配はない。

「…さて」

いつまでだってこうしていたいけど、時計の針はもうすでにお昼を回っている。

怠さを訴える身体を叱咤して何とか起き上がろうと試みた。

しかし。

「………」

腰に回されたままのリヴァイの腕が剥がれなくて、あっけなく断念する。

それどころか、どうやら離れていくのがお気に召さなかったらしく、本当に寝てるのかと疑いたくなるような力で以て再びベッドの中に引きずり込まれた。

ぴったりと肌が密着するほどに抱き寄せられる。

無意識にでも求められていると思うと、やっぱり幸せで、だけど少しくすぐったい。

「リヴァイ」

眠っている彼からの返事は、勿論ない。

でも無性にその声が聞きたくなった。

「リヴァイ、ねぇ、起きて」

わたしを呼んで。

そんな気持ちを込めて、薄い唇を食むように口付ける。

伏せられていた睫毛が小さく震えた。

ぼんやりと眠たげに開かれた瞳を覗き込みながら、小さな頃に読んだ童話を思い出す。

王子さまのキスで目覚めるお姫さまのお話。

今のわたしたちとは正反対。

でもこれはこれで、なかなかどうして悪くない。

一人でクスクス笑っていたら、目を覚ました王子さまは不機嫌そうな顔をした。

これが童話だったらにっこり笑って愛の言葉を囁くところだけれども、セオリー通りにはいかないのが現実だから面白い。

「なに笑ってやがる」

「リヴァイはわたしの王子さまだなぁって思ったの」

「朝っぱらから沸いてんじゃねぇ」

「残念、もうお昼だもん」

目を見張ったリヴァイは身体を起こし、時計を見てから、ちょっとバツが悪そうに目を逸らした。

「…悪い」

「どうして謝るの?」

「……約束、してただろうが」

買い物、と呟くように言ったリヴァイの言葉で、そういえば久々のお休みだから一緒に出掛けようと約束していたことを思い出す。

もっとも、わたしがその約束を覚えていられたのは昨夜ベッドに押し倒される前までの話だ。

でもリヴァイが本当に申し訳なさそうな顔をするのが可愛かったから、それは黙っておくことにした。

俯いた彼の鼻先に軽く口付けて、広い肩先に額を預けるようにして抱きつく。

髪を撫でてくれる仕草がうっとりするくらい心地良い。

「悪かった、本当に」

「大丈夫。まだ今日は終わってないでしょ?」

視線が重なると、リヴァイは静かに笑った。

「あぁ、そうだな」

それからそっと、戯れるように指先を絡めてくる。

恋愛事に関して淡白そうに見える彼は、実は意外と触れ合いたがりだ。

「ルリ」

「うん?」

繋がれた指先に、優しく唇が触れる。

「おはよう」

「…おはよう、リヴァイ」

蕩けるほど甘ったるく、幸せな休日が始まった。


キスと蜂蜜と土曜日の午後


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