「あら、また降ってきましたね」 いかにも重たげな鈍色の空を見上げている彼女の声に釣られて外を見た。 細く連なる糸のように、透明な雫がはらはらと地面へ吸い込まれていく。 庭先に咲く濃紫の紫陽花が音もなく揺れた。 「まぁ、たまにはこういうのも悪くねぇだろう?」 きちんと正座した彼女の膝を勝手に拝借してごろりと寝転がれば、いつもと異なる視線の高さがなんだか心地良い。 細い輪郭をなぞるようにして流れ落ちる黒髪をゆるりと指先で弄ぶ。 「…はい」 ほんのりと頬を染めて視線を彷徨わせる様は年齢に似合わず幼子のようで可愛らしい。 いつまで経っても初々しさを失わないところも、彼女の魅力の一つなのだけれど。 「Honey、こっち向きな」 逸れた瞳が寂しいと言ったら、笑うだろうか。 「政宗さま、でも、」 「瑠璃」 狼狽える彼女の頬へ手を伸ばして半ば強引に視線を合わせると、戸惑っていた表情がゆっくり解けて笑みへ変わった。 滑らかな指先で慈しむように髪を梳いてくれる感触が、たまらなく愛おしい。 「…このままずっと、止まなければいいのに」 起き上がって唇を重ねたあと、ぽつりと漏れた言葉ごと彼女を抱き締めながら、同じことを想った。 極彩色の祈り |