小さなことで言い争いをして、口を利かなくなってから三日が経った。

けれど仕事上顔を合わせないという訳にもいかない。

間に立つエレンやペトラは勿論のことながら、あのハンジでさえもそれはもう物凄く気を使ってくれるので、余計いたたまれなかった。

それは向こうも同じだろう。

(原因は何だっけ?)

ふと、書きかけの書類から視線を離して考えてみる。

淹れたばかりの紅茶がすっかり冷める頃になっても、思い出すことが出来なかった。

つまり、本当にそれだけ些細なことが原因だったのだ。

「痛っ…」

ズキン、とこめかみが不快な痛みを訴える。

ここ数日まともに眠れなかった所為で、ついに身体が不調を来し始めたのだ。

睡眠不足の原因が、彼と一緒のベッドで寝ないからだなんて、そんなこと誰にも言えないけれど。

とりあえず書類は諦めて、医務室に行って頭痛薬でも貰ってこよう。

部屋を出て、曲がり角を曲がった瞬間、突っ立っていた人物に危うく正面衝突しかけた。

「……!」

こんなところで何を、と思って顔を上げた途端、思わず目を丸くしてしまう。

其処には目下喧嘩中の相手であるリヴァイが、いつも以上の仏頂面をぶら下げて立っていたのだ。

呆然とするわたしの顔を見て、彼の眉間に刻まれた皺がいっそう深くなる。

「どうした」

「え?」

「…顔色が悪い」

躊躇いがちに伸ばされた指先が、いつもよりぎこちなく頬に触れた。

多分リヴァイもどう接したらいいのか分からないんだろうけど、それはわたしだって同じことだ。

「あ、の…寝不足で、頭痛が…」

それでもどうにかこうにか答えたら、何故かチッと苛立ったような舌打ちが返ってきた。

「…来い」

「え、ちょっ…!」

今しがた来たばかりの道を、強引に手首を掴まれ逆戻りする。

勝手知ったるなんとやらで人様の部屋に入ったリヴァイは、呆気にとられたままのわたしをベッドに放り投げた。

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