壁外調査に出ていた調査兵団が帰還したという報せはすぐに届いた。

街中が賑やかな喧騒に包まれている。

今回もきっと、たくさんの命が失われた筈だ。

人類の未来への希望と引き換えに。

本当はわたしも出迎えに行きたかったのだけれど、出発前に彼が言った「黙って部屋で待ってろ」の言葉に従うことにした。

そう、きっと、彼は帰ってくる。

眼下に帰還した兵団の人々が続々と集まってくるのを眺めていたら、背後で扉がギシリと鳴いた。

「…リヴァイ?」

ノックもせずに開け放たれるのは今更のことなので気にならない。

だけど、おかえりなさいと言うために振り返った瞬間、拐うように抱き締められたのには流石に驚いた。

お世辞にも身長が高いとは言えない彼なので、その腕の中に閉じ込められると本当に距離はゼロになる。

小さく掠れた吐息がやわらかく耳朶を撫でた。

どう言葉を掛けようか、少し迷ってからその広い背中にそっと手をまわす。

「…ルリ」

滑らかに低い声が、何かを確かめるようにわたしの名前を呼ぶ。

少し身体が離れて、至近距離から真っ直ぐに見下ろされた。

強いものを撓めたその瞳が、端から見れば分からないほど微かに、優しい色を浮かべる。

「大人しくしてたか」

「もう、子供扱いして」

「馬鹿、お前じゃねぇ」

大きな掌が、なだらかな曲線を描く腹部をそっと撫でた。

トン、と力強い胎動がそれに応える。

「大丈夫。いい子で待ってたよ」

「…そうか」

満足気に笑ったリヴァイは、もう一度わたしの身体を抱き寄せて唇を重ねた。

触れるだけのそれがくすぐったくて身を捩ると、今度は深く貪られる。

「…リヴァイ…」

「何だ」

飽くことなく繰り返される口付けの合間に、さっきは言いそびれてしまった言葉を。

「おかえりなさい」

「…あぁ、ただいま」

あなたが紡いだ小さな希望は、確かに未来へ繋がっている。


光を紡ぐ



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