雲行きが怪しいことは分かっていた。

だから別段、店から出る瞬間を見計らったように大粒の雨が落ちてきても、大して驚きはしなかった。

「困ったなぁ」

言葉とは裏腹に思わず唇が緩む。

あぁ、計画通り。

(…さて)

買い物袋を片手に提げてショーウインドウの前に寄りかかる。

そして待つことほんの数分。

ばしゃん、と水溜りの跳ねる音が目の前で響いた。

「この馬鹿、傘持ってけって言っただろうが」

大きな濃紺の傘を少し傾け、肩で息をしながら立っていたのは、予想通りの人物だった。

「すみません、うっかりして…でも、迎えにきてくれたんですね、土方さん」

にこりと微笑めば、彼の顔は面白いほど真っ赤になった。

「かっ、勘違いすんなよ、俺は別に、たまたま偶然通りかかっただけで、」

これまた予想と寸分違わず、持ち前のツンデレっぷりを遺憾なく発揮してくれる。

「そうですか。でもお陰さまで濡れ鼠にならず済みました。ありがとうございます」

「…さ、さっさと帰るぞ!」

一つ傘の下、いつもより少し遅い速度で歩き出す。

雨の日に、偶然と称して彼が迎えにきてくれたことは、もう片手では数え足りないほどだ。

(…かわいいひと)

真っ赤な横顔をちらりと見上げながら、内心密かにほくそ笑んだ。



偶然の名前は一度きり



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