覗き込んだ先にある瞳は、何度見てもうつくしい。

深い深い夜の淵に似た、艶やかな漆黒。

ときに無機質な印象を受けるその瞳が、自分を見つめるときに蕩ける様の、なんと幸せなことか。

我知らず溜め息を吐くと、その美しい瞳が薄明かりに揺らいだ。

「政宗さま…?」

「…ん、あぁ、悪い」

散漫になった意識を悟られないよう笑って誤魔化し、組み敷いた華奢な体を抱き寄せる。

瞳と同じ色をした艶やかな髪に口付ければ、淡い色をした肌が薄っすらと紅に染まった。

瑠璃曰く、「こういう行為は何度したって慣れない」らしい。

(まぁそこも可愛いんだけどな)

胸中密かに笑いながら指先で弄ぶように黒髪を梳く。

そこでふと、黙ってされるがままになっていた彼女がじっとこちらを見上げていることに気がついた。

「どうした、瑠璃」

「いえ…あの」

長い睫毛が一度、ゆるりと震えて。

「政宗さまの瞳が、とても綺麗だなと、思って」

「……え?」

「わたくしと同じ色の筈なのに…不思議でございますね」

まるで今宵の空のよう、そう言いながら陶然と笑む。

その瞬間、あぁ、間抜けな表情を浮かべなかった自分を褒めてやりたい。

だってまさか。

(同じことを、考えていたなんて)

幸せすぎる。

「え、あ、政宗、さまっ」

「悪ィが瑠璃、手加減できそうに、ない」

緩みかけた口許を隠すように、唇に噛み付いた。



柔らかい夜に魔法はいらない



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