その手で触れられた花たちは、咲くことが誇らしくてたまらないというように、美しく育つ。

「green fingers…」

「うん?」

水遣りをする手を止め、振り返った幸村くんはちょっと不思議そうに首を傾げた。

「green fingers。日本では緑の手って言うらしいけど」

「あぁ、植物を育てるのが上手い人のことだろう?」

にこりと微笑んだ幸村くんの指が、深い紫色をしたアスターの花弁を愛でるように撫でる。

優しく、優しく。

そんな風に触れて欲しいと、思ってしまうほど。

「幸村くんの手は、緑の手だね。どの花だって、みんな綺麗に咲くもの」

「俺が?そう言ってもらえると嬉しいな」

そうして、今触れたばかりのアスターを、何を思ったのか躊躇うようなそぶりもなく一輪、ついと手折ってしまう。

その花を真っ直ぐわたしに向けて差し出した幸村くんは、鮮やかに笑った。

「ねぇ瑠璃、花言葉を知ってる?」

「花言葉?」

「そう、紫のアスターの花言葉」

小さく首を横に振って、知らないことを伝えたら。

「わたしの愛はあなたの愛より深い」

てらいなく告げられたその言葉に、一瞬、息をすることさえ忘れてしまった。

重なった視線の間で、美しい花が揺れる。

「俺は確かにガーデニングが好きだし…こうやって綺麗に花が咲くと凄く嬉しいけど」

今度は少し困ったような笑みを浮かべて。

優しく、優しく。

その手がわたしに触れる。

「瑠璃がそれを見て、笑った顔を見せてくれることのほうがずっと好きだ」

慈しむように与えられた唇の熱が、なんだか萎れた花に水をあげる彼の仕草と重なって、思わず笑ってしまう。

「…どうしてそこで笑うのかな」

ほんのちょっと憮然とした表情を浮かべた幸村くんの頬に、お返しとばかり口付けた。

「…幸村くんは、やっぱり緑の手だなぁって思ったの」

わたしを上手に咲かせてくれる、たった一人の大好きな人だから。



green fingers