現パロ
「もー・・無理・・・・。眠い・・・。」
「頑張れ負けんな、コーヒー飲め。その眠気で細くなった目を開けろ。やりゃあ出来る。いくな。」
「もういっそのことこのまま逝かせてくれ・・・・!」
うああああー!とシャーペンを握りしめながら頭を抱えて振り乱す。そんな私を見てもフィンは一切私に興味を示さなかった。ひどい。
もうすぐ勝負という名の試験開始だ。もう秒読み段階なのだ。
それなのに化学とか日本史とかの基礎知識や年号が一切入っていない。入ってない、と言ったら嘘になるけどなんとなくあやふやなのだ。これは絶対にこれだって、自信を持って答えられない。それは緊張や不安から来るものだから、きっと覚えられているはずなのに、それらの要素が私の自信をつぶしていくのだ。
アンモニアソーダ法?なにそれ美味しいの?飲めるの?
歴史ってなんなの?昔の人の名前、混ざるんですけど。皆似すぎですけど名前。どうすればいいですか。
そんな状態だから今必死こいてフィンと頭に叩き込んでいるんだけど、苦手分野であればあるほど頭に入らない。
「無理だって!この定期テスト前の一夜漬けテンションでいっても全国の生徒相手じゃ勝てないって!」
「この1週間頑張ればまさかの展開で今見てたりする問題が出る可能性あるんだぜ?」
「そんな微々たる確率に夢抱いたってしょうがな・・・、」
「でも俺一発目の試験、この一夜漬けテンションで解いてた問題出た。」
「い・・・、マジか。」
「大マジだ。」
会話をしながらも目線は一切私に合わせずにシャーペンをノートに走らせるフィン。
ノートはフィン独特の汚い字で埋め尽くされていた。ちゃんと読める字で書こうね、って言ったら「マーク式だから問題ない」と返された。確かに。
「・・・・ヤマかけて。」
「バカやろう。こんな膨大な量からヤマなんてかけられるわけねーだろ。」
呆れたような顔をして私を見る。やっと私を見てくれたのに何だその顔。鼻で笑ってこないだけましだけど、その悟りを開いたような、「何言ってんだこいつ」みたいな目が腹立たしい。
そんなフィンに向かって私はすぐ傍にあった歴史の教科書をばっと開いてフィンに見せつけた。
「例えば歴史!まずこの3年間で何千年もの歴史を受け入れろって言うのがおかしいんだよ!」
「・・・・・。」
「昔の人だって1日1日必死に生きてたわけ!それなのに何千年もの年月の積み重ねをたった3年で頭に叩き込めと?昔の人に失礼千万です!」
「・・・・・・・。」
「・・・無視ですかー。」
おーい、と声をかけても返事は無かった。完璧無視を決め込んでいる様子だ。
私を置いていくのね、と演技交えて冗談かましても一切反応が返ってこない。あんまりにも虚しくなってしまったから、小さくため息をついて後ろにゆっくり倒れ込んだ。
春にちゃんと私、花咲くかなぁなんて思いながら天井を仰ぐ。
「・・・・ナマエ。」
「んー・・・?」
フィンは諦めかけた私を見て観念したようにため息をつくと、教科書をパラパラとめくってマーカーで線を引いた。
そしてそのページを開いたまま私にそれを渡す。
「・・・・・何?」
「ヤマ。」
「・・・・は?」
「ヤマだよ、ヤマ!俺なりに考えてやったから、とりあえずそれ全部覚えろ!」
「・・・名前だけ?」
「名前と反応式と何に使われるかと全部。」
は?とまた大きく声を上げてフィンを見ると、もうフィンの目はノートに戻っていた。
私ももらった教科書に目を通す。化学かぁー、うーん、今日はそんな気分じゃないんだけど、って正直に言ってこの教科書を思いっきり閉じて放り投げてしまいたい。
でもそんなことをしたら、さすがにフィンに愛想を尽かれてしまう気がする。それは避けたい、だってフィンと同じ学校に入りたくて、ここ数か月頑張ってきたんだから。
・・・にしても、
「こんなの学校でやった?」
「やった。」
「・・・・・いつ?」
「・・・・・・・。」
おいうそだろこの前やったじゃねぇかよ、という可哀想なものを見る目で見られた。ウソだろ、やったかこんなの。・・・・あ、私がもしかして寝不足で爆睡してた時にやったのかな・・?と思わずへへ、と笑ってしまった。そんな私を見て今度こそ鼻で笑ってからフィンは視線をノートに戻した。
いじけてやろうかと一瞬思ったけど、もう私もあと少しの期間、フィンと同じ学校へ行けるように頑張ってみようと思う。
法則だか年号だか、何だかよくわからないけど、せめてこれらだけでも覚えておいてみよう。
大丈夫、やりゃあなんとかなる。
やめたら負けだもの
(ちょ、フィン!ヤマ外れてたじゃん!)
(・・・・・・いや、出てたぜ?)
(・・・・・・・・・・。)
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間違ってもピーターパン症候群のフィンではありません。あいつは勉強できません。ナマエちゃんはなんだかんだ山外れてても他のところができてる子だと思いますよ。自信が持てないだけです。受験生の方々のご健闘をお祈りいたします。