「ナマエ。」
「・・・・。」
「ナマエ。」
「・・・・。」
「あーもう!終わった事はしょうがねぇだろ!」
「・・・・寿に私の気持ちなんかわかんない。」
もうどっか行ってよ、と机に顔を伏せた。
気合いも体調も万全で挑んだセンター試験。結果はよくなかった。自己採点した点数は期待していた点数よりも悪くて、気分はブルーなんてもんじゃない。表現色に黒より深い色があれば教えて欲しい。気分は最悪だ。
自己採点をして、あぁもうどうしようテンションが下がってしょうがない、と思いながら放課後の教室に一人ぼーっと座っていれば、クラスメイト兼彼氏の三井寿が迎えに来てくれたのだ。どうやら私に連絡を取っても携帯が通じなかったらしい。サイレントにして気づかなかった。というかショックで一瞬この世から意識がバイバイしていた気がする、と言ったあとにさっきの会話が繰り広げられたのだ。
「あれだ、あの、まだ2次試験とか私立の一般試験とかもあんだろ?」
「うん・・・。」
冷たくあしらったにもかかわらず、寿はまだ私の前の席に座っている。
俺そういうのあんまりわかんねーんだけどさ、という声のトーンからして、たぶん気まずそうに人さし指で頬を掻いているんだろう。
「まだどうなるかわかんねぇじゃん。」
「センターの点数足りないかもしれない。」
「2次で頑張れば良いだろ!」
「2次でも失敗したら?」
「私立行け、私立!」
「滑り止めしか受からないかもしれない。滑り止めの大学にはあんまり行きたくない。」
「・・・・お前もうちょっとポジティブになれよな。」
机に伏せ続けながらたんたんと返す私に寿は呆れたような声を出す。大好きな人のあきれた声ほど、悲しくて寂しいものはない。これ以上私の悲しみを掘り下げてどうするの?と言いたいくらいだ。
ていうかポジティブってどうすればなれるの?こんなにも将来が、未来が不安なのにどうしてポジティブになれるの?気持ちが負ければその時点で負けるから、明るく元気に前向きにって人はよく言うけれど、どうすればそういう気持ちになれるの?
私は、不安なんだもん。覚悟が、無いんだもん。全国のライバルに勝てる自信が、ない。
うっ、と情けなさと不安に涙が出てきそうだ。
周りの皆が頑張ってきたのを知ってる。私も私なりに努力してきたつもりだ。
でもでも、それでもみんなはもっと努力していたのかもしれない。頑張ったならそれでいいと皆言ってくれるけど、結果がついてこなければ結局はダメ、なのだ。
「自己採点見せろ。」
「・・・・。」
「あー、これか。」
「勝手に私の鞄漁らないで。」
「何も反応しないお前がいけない。」
どれどれ、と寿は私の鞄から勝手に取り出した自己採点の紙を見る。するとあんなに煩かった寿の声が消えた。
顔を見えないけど、そんなにあからさまに「あ、これは・・・」みたいな声で表現しないでほしい。ダメならダメで笑い飛ばしてほしい。そっちの方がいくらか・・・・
「阿呆かお前!これだけ取っておきながら落ちるとか言ってんじゃねぇ!」
「・・・・は?」
「これだけ取れて文句言うな!俺なんか昔センターの過去問といた時5点あったぞ!」
「・・・マーク式で?」
なにそれそっちの方がどうやって取んの・・?と得体の知れないものを見るような目で寿を見れば「黙れ。ともかく、だ!」と言いながら寿は私の自己採点の紙を乱暴にぐしゃぐしゃ丸めてゴミ箱へシュートした。
人の大事な点数データになんてことしてくれてんの、と思ったけれどあまりにも勢いのあるその綺麗なシュートは、私の不安も一緒に捨ててくれてるように錯覚してしまう。
「センターでこれだけ取れるなら大丈夫だ。まだ次の試験まで時間があるし、私立もきっと上手くいく。国立2次だってイケる。自分信じろ、俺を信じろ。」
ふと顔を上げると、自信に溢れた表情をした寿がいた。
「諦めたら、終了なんだよ。」
安西先生の受け売りだけどな、と寿は照れくさそうに目をそらした。
きっと、寿は私が例え0点を取っていても私を励ましたり大丈夫って言ってくれたりしただろう。
2次で点数取れば大丈夫、って言ってくれたと思う。今失敗したら次はもう失敗しねぇよ、って言ってくれたと思う。
諦めないで前向きにポジティブに、っていうのはきっと寿は私よりも得意だ。だから私の代わりにポジティブになって、それを私に分け与えてくれる。
それがどうしようもなく嬉しくて、あんなに土砂降りだった私の気持ちも嘘みたいに晴れ始めていて、
「・・・・頑張るよ。」
頑張れる、そう思えたのだ。
Never giveup!
(ぃよっしゃあ!まだ始まったばっかりよね!)
(そのいきだ!)
(寿も頑張ってね!)
(俺は、あれだ、実技頑張る、実技。体育系の学校だから。)
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三井は不器用な優しさがあると思います。センターお疲れ様でした。