「ねー、ナマエ。」

「んー?」


久々の2人の時間。

ゆっくり起きて、洗濯機を回して、コーヒーを入れて、朝ご飯を作って、シャルに出してあげる。それをシャルは美味しいよと微笑んで食べてくれた。

そんな午前中を過ごして、午後の2時を回る頃。



「俺達ってさ、いつから性格悪くなったかな。」

「・・・・ん?ちょっと、待って、」


突然シャルが読んでいた本から目を離して口を開いた。それと同時にシャルのその発言に紅茶を飲んでいた私の手が止まる。

俺、達・・って言いました?とシャルの方を恐る恐る向いて生唾をごくりと飲み込んでそう問えば、シャルは「あ、違う違う」と笑った。



「ごめんごめん、ちょっと語弊があったかな。」

「そうだよね!語弊が・・!」

「初期旅団メンバーもいれなきゃね。」

「違う!違うよ!」


そうじゃない、そこじゃない、訂正してほしいのはそこじゃないのよ!と持っていたカップをテーブルにたたきつけてしまった。それをうるさい、とシャルに窘められる。

今のガン!っていう大きな音を出したのは私が悪い、謝るけれど、私が訂正してほしかったのは旅団のメンバーを含めてほしいとかそういうところじゃなくて!とシャルを見た。



「なんで私も含まれてるの・・?!」

「え?違うの?」

「ち・・!」


違う、と強くは言えなかったのが悔しい。性格が悪い、ってどこから含まれてるんだろう、って考えると強く言い返せなかった。

私だってシャルと一緒にいる、イコール常に死と隣り合わせだ。自分の目的のために、自分が生き残るために、何人も今まで殺めてきた。自分のために他人を犠牲にしてる、って考えると、もうすでに私はシャルの言うとおり性格の悪い女、なのではないだろうか。そう考え始めると止まらない。

これは性格の問題じゃないのかな?生活していくゆえのやむを得ない過程なのかな?でも私がその目的を諦めれば通らなくていい道なんだから、それをわざわざ選んでしまう私は性格が悪いのかな?


シャルのちょっとした質問にたくさんの疑問が頭なのかを駆け巡ってしまう。

1人でうんうん唸っていたら、「俺はね、」とシャルが口を開いた。



「子供の頃って、ただ純粋に『ほしい』って思うだけだったのに、今はそれをどうにかして、どんな手を使ってでも手に入れようとしたり、それ以上を望んじゃうんだよね。」


そう言いながらシャルは右の手のひらを見つめながらギュッとこぶしに力を入れる。

この前も、その前も、手に入れるためにいろんな人を犠牲にした。それですべてが満足いくわけじゃなくて、一瞬だけその「手に入れた」ってことに満足できても、またすぐに違う隙間ができてしまう。

それを埋めるために、また誰かから奪う。それの繰り返しなんだよねー、とシャルから何かが抜け落ちたみたいに大きくため息をついた。



「こういうことしてるの俺だけじゃないけどさ、それがほかのやつらも一緒で、それを見てると汚いって思う。俺も同じようなことしてるから人のこと言えないのにさ。」


そしてどこか悲しそうな顔をした。

シャルの視線は確実にシャル自身の拳を見ているはずなのに、なぜだかどこか違うところを、その先を見つめているような気がする。私はゆっくり立ち上がってシャルのそばに行ってしゃがむと、シャルのその拳を上から包み込むように握った。



「どうしたの、シャル。いきなりそんなこと言い始めて。」


普段そんなこと言わないよね?とわざとシャルが怒りそうなことを言ってみたけど、シャルは何も言わない。

何も言わないまま、シャルは私の手を見続ける。そして気づいた。

そうか、シャルも人間だったんだ、極悪非道な旅団の参謀だけれど、少し疲れちゃったのかな、と心の中で思わず笑ってしまう。



「言ったら、許されるとか、そういうんじゃなくて。シャルはただ単に自分が勝手に懺悔したいだけなんだよ。後悔してない、これが正しい選択だって自分に言い聞かせたいだけなんだよ。」


あ、やばい、少し強いことを言っちゃった気がする。そう思ってすぐさま付け加える。

それでも私たちは奪うことはやめられないよ。そういう風に生きていたんだもん。簡単になんか変えられない。変われたら世の中みんな善人だよ。過去を振り返らないでもいいから、捨ててもいいから、後悔せずに、自分たちのために前に進んでかないといけないんだよ。そうじゃないとやってらんないよ、とヘラリと笑って見せる。

そしてシャルを見れば、そーだね、と少しだけ悲しそうに笑うのだ。



だいじょうぶ、だいじょうぶ
(間違ってないよ)

***
少しだけ人間臭いシャルを書いてみたかった。珍しくシャルより強いタイプのヒロインちゃん。

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