「っ・・・不器用!」
「え、えへ・・・・。」
今日はバレンタインデー。ジャポンでは好きな人に女の子からチョコレートを渡す日だ。だから普段料理をしない私も頑張ってチョコを作ろうと決意したのが1週間前。
1人では不安だったのでマチに手伝ってもらえるようお願いをして、毎日必死に練習してヒソカへ渡すチョコレートを作っていたんだけど・・も・・・・・。
「1週間同じモノを作り続けて同じところで失敗し続けるってある意味天才だと思うよ、アンタ。」
そう言うと、マチは私を見ながらひどく残念そうな顔をした。
今作っているのはトリュフ。溶かして混ぜて固めてパウダーつけて、比較的簡単と言われるバレンタイン定番のチョコだ。それなのに湯煎している時にチョコにお湯が入るわ、混ぜる分量間違えるわ、それ以前に混ぜる物間違えるわ・・・・。
「うーん。・・・・才能かな?」
「才能だね。」
呆れたようにため息をつくマチが目の前にいた。私もつきたいよ溜息。
そんなことを思いながらマチから時計に目を移せば、時計の針はもう4時を指している。ヒソカは仕事で今日はいないけど、6時には帰ってくると言っていた。
ヒソカは帰ると言ったら絶対帰ってくる。例え仕事が終わらなくても中断、もしくは強制的に終了させて言った時間ピッタリに帰ってくる。
だから私は絶対に6時までにチョコレート作りを終わらせないといけないのだと再度自分に言い聞かせて気合いを入れた。
「あ、あと2時間以内に終わる、かな・・・・?」
「奇跡でも起こさない限り終わんないよ。」
「わーん、マチー!」
見放さないでえええ!と泣きながら抱きつくと、マチは「うーん、」と何かを考えるように視線を天井へ向ける。
「しょうがない。あれにしよう。」
「・・・あれ?」
「そう。あれなら絶対失敗しない。失敗したら人間として終わりだと思いな!」
「そんな!」
「つべこべ言わずにさっさとやる!」
マチのきつい言葉を浴びながら、また私は冷蔵庫から新しいチョコレートを取り出した。
「(間に合った・・・・!)」
6時2分前。私はとうとうチョコを完成させた。
最終的に、この1週間の努力はなんだったんだ、という結果を思わせるようなチョコを完成させてしまったけどこれはこれで良い。失敗したものをひそかに渡すより全然良い。
マチは私がうまく行ったのを見届けてからすぐ帰って、私はすぐにソレをラッピングした。
「ただーいま◇」
「お、おかえり、ヒソカ!」
包み終わった瞬間、後ろから独特な声とあたたかなぬくもりが背中を覆った。
時計を見れば、針は6時丁度。やっぱりヒソカは言った通り6時丁度に帰ってきた。
ラッピングしたばかりのチョコを手に持ちながら、くるりと方向転換してヒソカを見る。
抱きついていたせいで、目の前にはヒソカのきれいな顔がドアップであった。
「(ち、近っ・・!)あ、あのね!今日バレンタインでょ?」
「ウン、だからボクのためにマチと1週間頑張っててくれたんだよね?」
「え、何で知ってるの・・・!」
「まぁまぁ◆それで?」
めっちゃ隠してたはずなのに!と言っても、なだめるように私の頭を優しく撫でながらヒソカは笑顔で話を進める。
そうだ、そんなことはもうこの際どうでもいい。私の努力を、気持ちを、ヒソカに渡すために今まで頑張ったのだ。
「い、1週間頑張ったんだけど、私、料理の才能無かったみたいで・・・!」
「うん◇」
「だから、こんなのしか出来なかったけど・・・・、」
透明なビニールでチョコレートを覆い、両端をきれいなリボンで留めたラッピングは中のチョコが良く見える。
おずおずとヒソカにチョコを渡すとヒソカは嬉しそうに受け取ってくれた。
「・・・板チョコ◇?」
「に、文字を書いただけです・・・・。」
反応が怖くてヒソカの顔を見ないように答えた。
文字を書くのも何を書いたらいいかわからなくて私が必死に考えて、メッセージを書いたチョコ。言い方を変えればそれしかやってないチョコ。だってマチがCMでやってたって。あれならナマエにも出来るって言うから・・・・!そんなのは言い訳でしかないんだけれど!
しかも文字は結局「ヒソカへ、いつもありがとう」だ。書き終わった瞬間になんだこれ父の日か、と自分でツッコミを入れてしまった。泣きたくなった。
「そっか◆ありがと」
「え・・・?」
意外な返答にそらしていた視線をヒソカに合わせるとヒソカは満足そうに、嬉しそうに笑っていた。
「お、怒らないの?」
「どうして?だってナマエはボクのために1週間頑張ってくれたんだろう?それに、これはナマエが作ってくれた物に間違いは無いよ◇」
ありがとう、と言ってヒソカは私に軽くキスを落とす。
「それで、ハイ、ボクからもプレゼント◆」
「へ・・?」
そういうとヒソカはどこから取り出したのか赤いバラが主役で、でも白とピンクも入った可愛い花束を取り出した。
どこから出したの?なんで花束?と言いたかったけれど、その花束が綺麗すぎて、驚きすぎてポカン、としていたら「手品師に不可能はないの◇」とだけ言われる。
「ジャポンでは女の子からプレゼントを贈るかもしれないけど、こっちは男から贈り物をする日でね◆」
愛しい人への贈り物だ、とヒソカは目を細めて私の頬に手を添える。
好きだよ、ナマエ、君は永遠にボクのものだ◇
そう言ってヒソカは私があげたチョコレートをパキッと口に含む。甘いね、なんて言ってからそのまま私にキスを落とした。
あまいあまい、チョコレート (チョコの味する) (まぁ、今食べたしね◆) (おいしい?) (うん、製菓会社の味◇)
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