今日は珍しくお互いの休日が被った。
いつもならどちらかは仕事なのに今日は朝から晩まで一緒という事実にちょっとだけ笑みがこぼれてしまう。いつも一緒にいられる時間が少ないから、一緒に映画でも見てべたべたしようかな、それとも一緒にお買い物に行こうかな、どうしようかな。というわくわくどきどきな展開というのは普通のカップルの考えな訳で。
「・・・合わない。」
私はテーブルの前にぺたりと座りながらジグソーパズルと睨めっこしていた。一生懸命さっきからはめたい場所のピースを探しているのだけれど、同じような色ばっかりで全然見つからない。そんな私を置いて、イルミは私の後ろのソファーで足を組みながら本を読んでいる。
べたべたくっついて一緒に休日を過ごす、なんて私たちには似合わないのだ。
「ねぇ、ナマエ。いつまで同じパズルやってるつもり?」
「んー・・・もーちょっと、」
「でもさっきから全然進んでないよね。」
頭弱いなぁ、なんて後ろで呟かれれば少しだけ心にグサッと何かが刺さった感覚になった。
そ、そりゃあ私はイルミみたいに頭の回転早くないし、普通の脳みそを持った女だけど、ジグソーパズルくらい悩みながらやったっていいと思うんだ。ていうかパズルってそういう遊びだよね?そうだよね?とイルミの冷たい反応に思わず自問自答してしまう。
「うるさいなぁ!良いの!ゆっくりやるの!」
「えー、でもこれをここに入れて、こっちをここにハメて・・・・、」
「あああ!私がやるからやめてー!」
私の後ろにいたイルミは、いきなり長い腕を伸ばして私のやっていたパズルをパチパチと凄い勢いでハメていく。
え、や、ちょっと、勘弁してください。頭の回転速すぎませんか。考える時間はなくて良いんですか。見た瞬間にわかるんですか、そうですか。
「ほら、こんなの5分あれば終わるよ。」
「1000ピースなんですけど。しかも風景画・・・。」
「これ元々美術館にもあるやつをパズルにしたやつでしょ?俺1回見たことあるから原型わかるし。」
余裕だね、といつもと変わらない表情でイルミは言った。
それもどうなんだ、とツッコミたかったけど止めた。もうどの辺から突っ込んで良いのかわからない。
イルミは3分程度でパズルのピースを全てハメて完成させると、座っていたソファーにまた腰を下ろした。私の数時間の努力を3分で無駄にしたよこの男。表情には出さないけどイルミはなんだか満足そうだ。よかったね、くそう。
「なんかもう本も飽きちゃった。お茶飲みたい。」
「アールグレイとアッサムがあるよ。アッサムでミルクティーでもいれようか?」
「ん、じゃあコーヒーで。」
「・・・・・・・・・。」
「エスプレッソね。」
「・・・・・うん。」
お茶って言ったのは誰だ。
そんなツッコミも入れないようにしたいと思う。だってほら、もうキリ無いし。相手にしてもらえないし。言うだけ体力の無駄な消費だってもう学習してるし。
イルミと一緒に過ごすなら、ある程度の割りきりが必要なのだと、だいぶ昔に理解し、受け入れたのだと自分に言い聞かせた。
「ねぇ、ナマエ。」
「んー?」
のそのそと立ち上がってキッチンへ行く。
イルミの好きな、ちゃんと豆から挽いた香りがたつコーヒーの粉を戸棚から取り出しながら、イルミの問いかけに答えた。
「次の休みはいつ?」
「んー・・・。明日から張り込みがあるから・・・・。そうだなぁ、一週間後かな?」
エスプレッソマシーンのスイッチをオンにしてイルミの元へ戻ると、イルミはいつもの表情を変えず、顎に手をやりながら「うーん、」と何か考えていた。
「俺次の休み5日後なんだ。5日後にしなよ。」
「えええ、そんな。」
「できないならナマエのとこのヘッド潰すだけだから良いけど。」
「ちょ、ま、ストップ!休みにする!早く終わらせて休みにするから!」
「最初からそう言えば良いのにー。」
冗談だよ、冗談。ハッハッハ、なんて笑いながらイルミは私の頭を撫でた。
一瞬の会話なのに全力で疲れた。イルミはいつも冗談が本気に聞こえるから困る。・・・・まぁ今回のは半分以上本気だった気がするけど。ハハ、と乾いた笑みを浮かべながら私はイルミが座っているソファーの下に座っていたけど、よいしょと立ち上がって隣に腰を掛け直した。
「ていうかさー。もうフリーになれば?ナマエなら強いから1人でもちゃんと依頼来るよ。」
「んー。でも自信無いからなぁー。フリーなんて無理無理。」
「うーん。じゃあもう俺と結婚して寿退職しようか。」
「・・・・へ?」
そうだ、それが良い。とイルミは1人頷く。
唖然とする事しかできない私の横で、エスプレッソが出来たという知らせのコールが、鳴った。
まるでそれは流れ星のような速さ、なんてロマンティックなもんじゃないけど (面倒だから式はゾルディック家内で良い?) (早い、考え付いてから行動に移るまでが早いってイルミ!)
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