「もーすぐ年明けだねぇー。」

「そーだね。」

「でもおうちが悲惨だね。」

「ね。でも俺はこんな状態の家の中でも普通にお茶飲んでるナマエを見て成長したなって思うよ。」



めったにものを欲しいと言わないナマエが唯一「ほしい!」とジャポンから取り寄せたテーブルに布団がついてて、電気を使って中が温められるコタツというのに入りながら俺もお茶を啜った。

そんなのんびりとした俺たちの背景は異常だ。人が数人死んでいて、部屋も少しだけ血塗られている。つい5分前に俺の首を狙うマフィアが年末大掃除だと乗り込んできたのだ。

俺を殺すセリフに「年末大掃除」だなんて、センスを疑う。こっちからしてみればナマエが必死に年末大掃除し終わった部屋に何土足で踏み込んでんだって話なんだけどね。

しかもナマエが怖がるから家に乗り込んでくるなよとか思ったけど、そこは経験を積んだらしい。ナマエは怖がるどころか「年末大掃除だ!」とかふざけた奴らを見て「・・・・うわぁ。」と間抜けな顔しただけだった。ちょっと笑った。

そんなナマエにイラッとしたのかマフィアは俺じゃなくてナマエに襲いかかろうとしたからここで俺の中の何かのスイッチが発動。俺を狙いに来たのに何ナマエに怪我させようとしてるの?

普段自分の手を使って人を殺すことは少ない(だって携帯使った方が楽だし汚れない)けれど、少し頭にきたから思わず体が動いて3分で全部片づけた。綺麗に殺そうと思ったけれど、少し赤が飛び散ってしまった。



「掃除がんばったのになぁ・・・。」

「あそこの壁、ナマエ必死にクレンザー使って磨いてたよね。」

「本当だよー、もう赤いよー。さっきまで白かったのになー。」


今日1番頑張ったところなのになぁー、と今日1番の頑張りをつぶされてしまったことに絶望して脱力してしまったのか、いつもよりも語尾を伸ばして1つ1つの言葉が伸びる。

本当、俺といたからかナマエは成長した。さっき一瞬命を狙われたって言うのに、こんな状況下だっていうのに、肝が据わってる。昔はちょっとしたことですぐに泣く泣き虫少女だったくせに。旅団のみんなと過ごした年月が長いせいで、彼女の心も強くなったようだ。

そして昔は護身術だけでも教えようかと思ったけれど、ナマエに戦いのセンスがなさ過ぎて諦めたのを思い出した。俺が守ってあげればいいかな、と思って「守ってあげるからできるだけ傍から離れないように」と約束させたあの時から、ナマエはその約束をちゃんと守っている。

さっきもマフィアが乗り込んできた瞬間に、キッチンで紅茶を入れていたナマエはすぐに俺のそばに来たんだから。ていうか俺のそばにいたのに俺よりもナマエを狙おうとするとか本当無いよね。あ、思い出してきたら少しイライラしてきた。



「シャル、ここどうやって片そうか。」

「え。・・・・あー、シズク呼ぶ?面倒だし。」


イライラの渦にのみこまれそうになる俺の耳にナマエの声が届いた。

この家の中をどうにかしたいらしいナマエの質問にそう返せば、ナマエはそれいいね!と目を輝かせたけど、次の瞬間には「あ、」とすぐ輝きを失った。



「シズク今確かとっても遠いとこにいるよ・・・。」


前にそんなこと言ってた気がする、と肩を落とした。ウサギや猫だったら、きっと耳が垂れているに違いない。そんな想像をしたらすごくかわいらしく思えてクスリと笑ってしまった。

やっぱり俺は、ナマエを見つけて、救ってあげた時からナマエには甘いのだ。



「しょうがないから俺が今片してあげる。」

「・・・・え?」


本当・・?シャルが、片づけ・・・?とナマエは信じられないようなものを見るような目で俺を見た。何それ失礼なんじゃないのと手を伸ばして軽くナマエの頬を抓ってやる。

痛いよごめんなさいありがとうございます!と暴れたので抓るのをやめて熱を持った頬を軽くさすってやった。少しだけナマエの瞳には涙が浮かんでいる。



「とりあえず片そ。」

「ん、片す。」


ちょっとまだ痛い、と自分の頬をさすりながらナマエが炬燵から出た瞬間、時計が0時を回ったと俺たちに知らせるように鐘を鳴らした。

綺麗な部屋で年越しできなかったね、とナマエは苦笑いする。

そうだね、と返しながら俺も炬燵から出た。


たとえ綺麗な部屋で、新たな気持ちで新年を迎えられなくても、ナマエと一緒の空間で新年を迎えられたらそれでいい。今年もナマエを守って過ごしていこうとナマエの手を引いて自分の腕に閉じ込める。ナマエはいきなり腕を引かれたことに少しびっくりしたようで目を開いたけど、次の瞬間には嬉しそうに笑んでくれた。


俺が唯一、ほしくて、手に入れて、絶対に手放したくない存在が、ナマエなのだ。それは去年も、今年も、これから先もきっと変わらない。



「年の最後に、俺のせいで怖い思いさせてごめんね。」

「ううん、大丈夫。怒ったシャルの方が怖いよ。」

「どういう意味?」


しまった・・、と絶望するナマエの顔を色を見て、本当単純な子だなと心がほっこりする。ナマエは俺の精神安定剤だからこういう風に単純で素直な、俺とは真逆なこの子が本当に愛おしい。

口を滑らせたナマエをどうしてやろうかと思っていたらナマエは俺の腕の中で「でも、」と口を開き、俺を覗き込む。



「シャルが私を絶対に守ってくれるから、怖い人たちが来ても怖くないよ。」


だって私シャルのそばから離れないって約束したもん、と笑顔の花を咲かす。

不意打ちで、心臓がドクン、となってしまったのが聞こえてしまっていないか心配だ。ナマエはこういう風にふとした瞬間に爆弾を落としていくんだ。

俺と昔に交わした約束を、ちゃんと覚えてくれているんだと再確認できたことが単純じゃないはずの俺の心を弾ませる。



「・・・そーだね。俺強いから。」


何でもないようにポーカーフェイスを気取ってナマエの頬を撫でてやると嬉しそうにナマエも俺の手に頬を摺り寄せてきた。

ともかく今年は、去年よりも少しだけ優しくする努力をして、必ずナマエを守ってあげる努力をしてあげよう。



その約束は永遠に
(そういえば今年もよろしくね。)
(ん、よろしくね。今年は去年より優しくしてね。)
(さあ?)

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