ナマエと出会ったのはいつもと変わらない、ゴミや廃材に埋もれた流星街の一角。

その日はクロロたちとは別行動で、何か面白いものがないか探していたんだ。

まだ幼い俺達だったから、必要なものは全て奪うことしか出来ない。まぁべつに大人になっても奪うことを止めようとは、思っていなかったけれど。

あの頃の俺は皆と違ってほしいから奪うんじゃなかった。必要だから奪う。ただそれだけ。


それでも初めて、自分から凄く欲しいと思えたのがナマエだったんだ。








「やだ!いやだよ!離して!」


何かいいものはないかと瓦礫の山を掻き分けていると、ふと耳に女の子の声が届いた。

同い年か、俺より少し幼い女の子の声。

屈んで探していた態勢をやめて立ち上がり、周りを一望したけど人の姿は無い。それでも悲痛に叫ぶ声はする。

普段なら放っておくんだけれど、何故か足がその場から離れようとしなかった。むしろ足はその声がする方へ向かっていく。ゆっくりと歩いて、だんだん速く、駆け足に。



「おねが、い、はなして!」


声がすぐ傍に聞こえる距離まで来て廃材の裏に隠れて様子を見た。

タチの悪そうな大人2人が女の子の腕を掴んでいる。顔はよく見えないけれど、背丈を見るとやっぱり予想通り、同い年か年下くらいの女の子。



「(何してんだ、俺・・。)」



今の自分に思わず呆れた。

ここからすぐ、離れれば良いのに。


恐怖じゃない、それとはまた違う感情で動かない足と脳に何度も何度も自分に言い聞かせる。


流星街は無法地帯。何が起こったっておかしくない。ここでのたれ死ぬ奴なんて星の数ほどいる。

きっとあの子だって、死にはしなくてもどこかに売られて一生労働させられるに違いない。労働だけならまだ良い方だ。女の子だから、辱められる道具になる可能性の方が、高い。


自分の身は自分で守るしかない。

俺だってまだ、大人に勝てるほど力は強く、ない。

それをちゃんと俺は、わかっている、のに。




「助けて・・っ!」

「っ・・・・、」


あぁもう面倒くさい。

そう思った瞬間に傍にあった鉄の棒を掴んで駆け出していた。2人の男がこっちに気づいてもスピードを緩めずそのまま走る。

そのスピードのまま高くジャンプして女の子の腕を無理矢理引っ張っていた男の頭を殺す勢いで殴った。気絶すればいいなんてそんな甘っちょろいことしてたらこっちがやられる。

1人仕留めたら女の子には目もくれずに、もう1人の男の方へ体を向けた。俺を捕まえようと殴りかかってきたのを避けてそのままさっきの男にやったのと同様、鉄の棒で思いっきり殴る。

倒れたのを一瞬で確認してから、恐怖で座り込んでしまっていた女の子の手を引いてその場から離れる為に走った。



走って走って、仮にあの大人2人が生きていても追ってこれない場所まで止まらなかった。

その間まったく手を引いてあげている女の子の方は見なかったけれど、彼女もきっと生きる為に必死になって俺についてきたと思う。


廃材の山を、間を通り抜けて、遠くまで来たところでようやく俺は足を止めた。

念を習得する為に体力をつける訓練をしているから俺は全く息切れしなかったけれど、女の子の方は今にも呼吸困難で死ぬんじゃないかってくらい息を切らしていた。必死に方を上下にさせて呼吸を整えようとしている。

いくらか時間をあげて彼女の息が整ってから、俺は彼女に話しかけた。



「ねぇ、君名前は?」


優しく聞いてやろうかとも思ったけれど、助けてあげた上に優しくする必要なんて無いと思うし、俺にメリットが全く無いので普通に聞いてみた。

普通に聞いてみたけれど、彼女は顔を下にしたまま全くこっちを見ずに肩を少し縮ませる。

なにそれ俺がこんなに親切にしてやってるのに何様なの。



「名前は?」


そう思いながらも、イラつきをどうにか抑えて俺はまた同じ質問を繰り返す。それでも彼女は何も言わなかった。



「名前も言えないわけ?」


あんまりにもムカついたから下を見続ける彼女の顔に手を伸ばして無理矢理顔を上げさせた。

そういえばこの子の顔、まともに見てないなとも思いながら顔を見ると、涙を溜めて怯えた表情をしていた。

薄汚れていたけど幼いながらに今まで見た事のない「女の子」の表情で。一瞬こっちが焦ってしまった。

すると俺の顔をまともに見て年が近いとわかって安心したのか、ようやく口を動かしてくれた。



「ない、の。」

「・・・・は?」


何が、と言おうとしたけどすぐに気づけた。

名前を持っていないの?と問えば、彼女は首を1つ縦に振って続ける。


ずっとずっと、1人ぼっちだったから無いの。あったのかもしれないけれど、知らない。と彼女は必死に涙を拭いながらか細い声で俺に訴える。


泣くなよ、もう。助けてあげたのに、久々に良い事をしたのに、どうしてこんな目に合わなきゃいけないんだ。パクやマチは女の子だけど、強いから泣かないし、そのせいで泣くような弱い女の子と話をしたことが無いからどう扱っていいかわからない。


ここで怒ってもきっとまた泣くだろうから、自分を落ち着かせる為に深く「はぁ、」とため息をついて自分を落ち着かせた。

そして数十秒時間を置いてから俺は口を開く。



「・・・・ナマエ。」

「・・・・え、」

「君の名前だよ。名前がないとなんて呼んだら良いかわからないだろ。」


だから俺が付けてあげる、と呆けた顔をしたナマエの涙をぐいっと拭ってやった。

何個か名前を考えて1番しっくりするものを選んだつもりだ。



「ナマエ・・・・、」

「そう。センス悪いとか言ったら、」

「ナマエ・・・、」


また名前を繰り返すから何だよと思ってナマエを見る。

するとナマエが嬉しそうな、驚いたような、よくわからないけどともかく喜びに溢れた表情をしていた。

気に入ったの?と聞けばナマエは強く首を縦に振る。悪い気分じゃない。

ナマエは遠慮がちにも、俺の目をちゃんと見て口を開いた。



「すぐに、お礼・・を言わないでごめんなさい。人とほとんど話したこと、ないから・・怖くて、何をしゃべったら良いのかも、わからなくて。」


俺が拭いきれなかった涙を自分で拭いながらナマエは続ける。

それも、初めての花のような笑顔で。




「たすけてくれて、ありがとう・・・!」


今までに見たことない、1番綺麗な笑顔だった。

トクン、と自分の心臓が大きく鳴ったけれど、俺はこの気持ちをどうしたらいいのかわからない。

とりあえずナマエをこのまままた1人にしたくはないと思ったし、他の大人に連れて行かれるのもなんかムカつく。



「ねぇ、どうせ1人なんでしょ。」

「ん、」


俺の問いにナマエはコクリと首を縦に振った。

じゃあ、と俺はそのまま続ける。



「俺が助けてあげたんだから、俺の傍にいて俺の為に生きてよ。」


それくらい俺に決定権あるよね?とナマエに問えば、首を傾げたけれどちゃんと意味はわかってくれたようだ。



「あなたのお名前、教えてくれたら、ちゃんと、傍にいる。」


もう1人はイヤ、怖い、寂しい。とナマエはまた泣き出す。

とりあえずこの子には泣かない事を覚えさせなくちゃなぁと思いながらまた涙を拭ってやる。

本当に今日の俺はどうかしてると自嘲気味に笑ってしまった。



「シャルナーク。」


シャルって呼んでいいよ、と俺が笑えば、ナマエは嬉しそうに笑ってくれた。




俺が君を見つけた日
(ただいまー。)
(おかえりシャル・・って、だれその子。)
(ナマエ。拾ったから。今日からみんなと・・、)
(可愛いね、ちょっとお風呂焚いてくる。)
(そうね、お風呂に入れさせてあげた方がいいわ。)
(・・・・。)

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過去アンケート1位のお祝いとして出会いのお話を書いてみました。補足しておくと最後の会話はシャル、マチ、シャル、マチ、パク、シャルです。マチとパクからは「女の子だわ!」って歓迎されて溺愛されれば良い。
ナマエちゃんの名付け親は実はシャルでした。
まだ完璧な自信を持っていないシャル。でも数年後にはエンペラーになるんだよ←

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