「ひぃっ・・・・!」



ある夏の夕方。

レンタル屋で借りてきた映画をクロロと2人で観ていた。


チョイスしたのはクロロで、これは面白いって言うから特に映画の内容を聞かなかったんだけど。



今すごく後悔してる。あの時の自分を殴り飛ばしてやりたい。



借りてきた映画はホラーでその上フェイが好みそうなヤバいくらいにグロい映画。


これぞ最高級ホラーだ。



「・・・・そんなに怖いか?これ。」



怖がる私を横目で見ながら不思議そうに首をかしげるクロロ。そりゃあ幻影旅団団長様はこんな映像ごとき怖くないのかもしれない。

だけど一般人は違う。少なくとも私は違う。

見てるときも何が起こるかわからない恐怖に鑑賞中ずっとドキドキしているし、終わった後だって出てきたらどうしようとか、夜寝る時だってクローゼットから出てきたらどうしよう、夜中に目が冷めて目を開いたら目の前にいましたなんて事が起きちゃったらどうしよう!と想像と妄想と恐怖が暴走するのだ。



それを必死に伝えると、クロロは困ったように笑いながら怖がる私を後ろからあやすように抱きしめた。



「ほら、これなら怖くないだろ。」

「怖いよ!」


確かに背中から伝わってくるクロロの心地良い温度に安心する。

だけど今は映画の恐怖の方が勝っていた。



「ぎゃああ!今あの化け物頭ぐしゃって!」

「まぁあれくらい当然だろうな。」

「うそでしょ?!」


平然と恐ろしいことを言ってのけるクロロが怖い。

もう映画からくる恐怖のせいで私の心臓と涙腺は限界を迎えていた。寿命が縮んだ。だめだ私今日心臓発作で死ぬかもしれない。



「やだよ、クロロ!止めようよ!」

「もう少しで終わる。」

「うー・・・、」



我慢しきれなくなった私は後ろを向いてクロロに抱きついた。

何も見えないようにクロロの胸板に顔を押しつける。そして夜出るよ!ぐっしゃりやられちゃうよ!と必死に説得する。

それでもクロロはDVDプレイヤーを止める気が無いようではいはい、と軽く流された。ひどい、こんなにも頼んでるのに。

止める事を諦めた私はとりあえず心を無にして恐怖をなくそうと必死にクロロにしがみ付く。

大丈夫、怖くない。大丈夫、夜何かが出てもクロロが瞬殺してくれる、大丈夫、ていうかなにも出ないから。そう、何も出ない出ない出ない出ない・・・・!



「・・それじゃあ音は聞こえるだろ。」


必死に自己暗示をかけていたらクロロがくす、と笑う。

笑い事じゃないんだよ!と言おうとしたけど、その前にクロロは私を抱き上げてあぐらをかき、その上に私を乗せた。

そしてクロロの足の上に乗ってるおかげで座高がクロロくらい高い位置にきた私の頭を自分の顔の横に引き寄せて優しく撫でてくれた。



「今からクライマックスだから。」

「っみ、耳元で言わないで!」


ちょうどクロロの口のすぐ近くに耳があるから低くて甘い声がダイレクトに響いてくる。

しかもそれに弱いとわかりながらわざといつもより低い声で言ってきた。



「でもこれで音も気にならないだろ?」

「ふ、や・・・・!」


ペロッと耳を舐められたからもう思考は真っ白で確かに何も聞こえない。もう少し、な、とクロロはまた耳元でささやく。

何も考えられない。テレビの音なんて聞こえない。

悔しいけれど、クロロの作戦は成功したようだ。



「・・・・ホラー映画の悲鳴の中でするのも悪くないかもな。」

「・・・え、や、ちょ、今なんて・・・!?」

「ヤバい声を出すナマエが悪い。」

「ヤバい声を出させるようなことをするクロロが・・!」



悪い。

そういう前にクロロの唇に私の唇を塞がれた。

クロロの舌が絡みついてきて逃げようにも逃げられない。



「・・・・っ!」

「映画の音も画面も気にならなくしてやるよ。」


結局その後、映画のクライマックスを観ることができなくて怖いだけで終わってしまったのだ。



ホラームービーから始まった、
(甘いラブストーリー)

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