「嘆く空は愛を唄う」の前のお話。病気表現注意。




「ねぇ、フィン?」

「なんだよ。」


今日は体調がよかった。すごくすごく、外に出たい。

お化粧して、買い物して、アイスを食べて、あ、可愛いカフェでお茶も飲みたい。ペットショップに行って可愛い犬や猫も見たいし、それ以上に遊園地にも行きたい。

やりたいことがありすぎて、私の部屋に来たフィンに今思ったすべての事を言うと、「ふざけんな」と一喝されて終了してしまった。

私のささやかな想像という名の楽しみを一刀両断するなんて!何て酷い人なんだ!と訴えたら、フィンが持って来たりんごを思いっきり投げられた、痛い。

うう、と泣きマネとかも試してみたけれど、私と一緒にいる時間が誰よりも長いフィンにそんなの通じるわけがなくて。私を思いっきり無視して傍にあったナイフを取った。どうやら持って来た果物を剥いてくれるらしい。

優しいなぁー、なんて思ってそんなフィンの姿を見ていたら、私の脳裏に1つの疑問・・というかフィンに対する質問が過ぎった。



「もし、自分が大事な人に会いたくて、でもその人には決して会えない状況だったらどうする?」

「‥別に大切な奴なんかいねーよ。」

「え、うそ?わたしは?」

「・・・・。」

「ノーコメント・・・!」


うそだ何それひどい、私が大切じゃないって言いたいの?私フィンのことめちゃくちゃ大事だよ!とベッドの上で暴れる。

フィンの首を掴んで前後にゆすってやろうかと思ってベッドから出ようとした所でフィンから待ったがかかった。



「病人は起き上がんな。」


ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、優しい力で私の両肩を抑えつけてベッドに横たわらせられる。

むす、とした顔でフィンを見ていたら、フィンは私の顔を見て「はぁ」と大きくて深いため息を1つついた。



「大切じゃない、わけじゃ、ない。」


これでいいかよ、とぶっきらぼうに言って私を見ずに、りんごを気合いと勢いで剥き始めたフィン。きっと照れ隠しだろう。直球で「好きだ」と言ってくれたわけでもないのに、どうしてここまで全力で照れる事ができるんだろう。

可愛いなぁ、と思うと同時に剥かれてるりんごが凄く可哀想な状態に陥っているのが目に入る。



「フィン、りんごがガタガタだよ・・・。」

「うるせぇな、食えればいいだろ。」


皮を剥いて、適当な1口サイズに切られたりんごをフィンが私の口に無理矢理突っ込んだ。ビックリしたけど、持ってきてくれたりんごは凄く甘くて美味しい。

あまりにも美味しかったから思わず笑顔になると、それを見たフィンが満足げに笑った。



「早く良くなれよ。」

「じゃあ早く病気治せるタイプの念能力者見つけてきてよ。」

「探してっけどそんな都合の良い能力者はなかなかいねぇんだよ。」


正直絶対ナマエが自力で治した方が早い気がする、とフィンはまた私の口にりんごを入れる。

じゃあ私の念能力で探そうかな!と言ったら「どうせ失敗すんだからそんな無駄な体力を使うな、温存してろ」と返される。確かに、私の念能力は失敗しやすいけど。でも私が頑張った方が早いと思うんだよ。

そう言ったら「ハッ」と鼻で笑われた、なにそれ超むかつくよ!そんな私の心情を察したフィンはまたボロボロの一口サイズのりんごを口に突っ込んだ。



「静かに寝てるのがお前の仕事だ、外に出たら殺す。」

「やだなにそれ今一生懸命静かにしてる行為を一瞬に無碍にするという最低行為ですよ!」

「静かに治す事に専念すりゃあ良いんだよ。」


しゃりしゃりと噛みながら「そうだねぇ」とのん気な声で返してみた。フィンはそんな私の声に、一瞬だけ私を見てから私の頭を撫でる。

不器用なりの鼓舞だろう。



「ん、頑張って早く治すよ。だから治ったら、色んな所に連れて行ってね。」


フィンとまた一緒に暴れたいし、いろんな国に行きたい、色んな美味しいものが食べたい。

そうフィンに笑顔で訴えたら「しょうがねぇやつ」と笑われた。



「いいぜ、どこにだってつれてってやる。しかも俺のおごりでな。」

「やった!約束だよ。」

「あぁ。」


たまには守ってやるよ、約束ってやつを。とフィンが私に布団をかけ直した。


さて、疲れたから私は少し眠るとしよう。




私がいなくなったとしても
(私の分まで楽しく生きてよね)


***
「嘆く空は愛を唄う」のフィンが可愛そうだったから幸せだった頃のフィンを書いてみた。でもアンハッピーエンドくさい。
ナマエちゃんの能力はテレパシーや手紙の瞬間移動で自分の気持ちや考えを必要とする人に伝える能力。

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