私が欲しいのはお金でも地位でも力でもなくて、
「じゃあ何が欲しいの?」と仲良しのパクに聞かれても「わからない」って答えることしかできなかった。
欲求がありすぎて、きっとこの欲求はクロロよりも酷いなぁ、なんて自嘲気味に笑いながら体や脳をコントロールできなくなった自分をナイフで傷つけてみたし、憂さ晴らしに汚いマフィアやチンピラ共を殺したけど、「ほしい」という欲求ばかりが増えていくばかりでなにも変わらない。
「・・そりゃそうか、」
何が欲しいのかもわからないのに、満たされるはずがない。
殺った後の生温かくて鉄のにおいがする血を体中に浴びながら、あまりの虚しさに笑ってしまった。
「何やってるの。」
「・・・イルミ。」
一瞬だけ、体がこわばってしまった。背後から何も動じずに声をかけてきた声の持ち主はイルミだった。振り向けばただこちらを見ている。相変わらず、無表情で、冷たい瞳。
私はイルミの両親に決められた婚約者だった。
はじめまして、こんにちは。そんなことを笑顔で言ったのは遠い昔の話。その頃から1度もイルミは笑ってくれた事が無い。
婚約者と言った関係を持ってもデートとかそんな浮ついたことは一切無いかった。世に言う政略結婚ってやつだから、しょうがない事何だと何度も自分に言い聞かせてきた。
どうやってこの場所を突き止めたんだろう。仕事のことは一切言っていないのに。そんなことを思っていたらこちらに一歩一歩あゆんできた。
「クロロから連絡がきたんだ。ナマエが荒れてるって。」
「・・・荒れてないよ。」
「そう?荒れてないならナマエはこんな無駄に人を殺したりしないはずなんだけど。」
イルミは転がった死体を興味なさそうに眺める。
こんな無駄に、なんてイルミの口から出るとは思わなかった。一緒にいることを許された仲なのに、まともに一緒の時間を過ごした事が無い。会話もほとんどない。
それなのに、どうして、私の気持ちがわかるの
そう叫びたい気持ちもあったけれど、弱い私は結局何も言えない。
「ごめんなさい・・・。」
「なんで謝るの?別に良いよ、ナマエの好きにして。」
イルミは私に干渉しない。
私に全く興味を持っていないから。
「とりあえず俺これから仕事だから。」
「うん、」
生憎死にそうなほど不器用で、私が可愛らしいことを言ってもイルミはわかってくれないなんて勝手に頭の中で決めつけているから、さらにどうしようもない。
「またいつか暇になったら顔出すよ。」
それだけ私に伝えるとイルミはその場を去ろうとした。
「何?」
「え・・?」
「腕。」
いつの間にかイルミの腕を無意識に掴んでいた。
まるで私から離れないでとでも言うように。
離そうと思っても腕は震えるばかりで離れてくれない。
イルミはそんな私の腕を掴んで自分の腕から引き離した。
「病的な腕。」
イルミは相変わらず無表情な顔で呟いた。
「もう行くから、じゃね。」
「っ・・イル・・・!」
私の声は彼には届かない。
例え私が彼を死ぬほど愛していても。
自分を傷つけても、誰かを傷つけても、この空いた気持ちを埋めることができない。
今、私に必要なものがイルミで、イルミからの愛だとしたら
もう一生、この欲求と虚しさと涙は止まらないだろう。
振りほどかれた手 (おいて、いかないで)
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