「イチ、ニ、イチ、ニ◇膝からじゃなくて足の付け根から・・そうそう、上手上手」
「ぷはっ!」
「ほらすぐ顔を水に戻す◆」
「ちょ、ちょまて・・・!」
掴んでいた両手の片方を離されて、一気に顔を水面に押し戻された。
顔を上げた時に一瞬だけ見えたあの喜々とした笑顔にSさを感じた。
こんな風に泳ぎの練習をすることになったのは、昨日の夜の電話をしていた時の事までさかのぼる。
暑いねー、プール入りたいねー、でも泳げないんだよねー。
そんな話をヒソカとしていたら、次の日、つまり今日学校のプールに連行された。泳げないなんて言った昨日の私を殴りたい。
そういえば、うちの学校は水泳部以外にプールを開放してないのにどうして入れるんだろう。
それよりも問題なのは、学生らしからぬフェロモンを撒き散らすヒソカを直視できないこと。
ちっくしょう、この人本当に学生なのか。
「んー、じゃあ5分休憩ー◇」
「やった・・・!って、うわっと!?」
数分後、やっとヒソカからの許しが出て、バタ足をしていた時に前に前に引き続けていてくれたヒソカの両手を離し、私はプールの底に足をつける。
教えてる間は足をつけちゃダメ◇なーんて鬼畜発言をされたもんだから足をつけられてすごく嬉しい。
けれど泳げない人間がずっとバタ足をし続けていたから、足がふらついてプールの中でバランスを崩してしまった。
「大丈夫◇?」
「う、うん。何とか。」
プールの中にダイブする前にヒソカが私の腕を引いてくれた。その反動でプールにダイブからヒソカの胸へダイブに変わっただけなんだけれど。
なんていうか、その、やっぱりヒソカは上半身・・その、裸・・・なわけだから?
め、めちゃくちゃ恥ずかしい・・・・・!
「ナマエ、顔真っ赤だよ◆」
「っ〜〜〜!」
ヒソカは倒れこんだ私の両肩を掴んで少し自分から引き離して顔を覗き込んでくる。
無駄なく筋肉の付いた男らしい体、いつもは上げているのに下りている髪、その上その髪が濡れて長い首筋に張り付いていて非常に官能的。
いつもと少し違うヒソカの姿が更に私を陥れた。
「の、喉渇いたなー・・・!」
「クク◆ナマエは恥ずかしがり屋さんだなァ」
照れ隠しの為にそう言えば、何でもお見通しのヒソカに低く笑われた。
いやもう「恥ずかしがり屋さん◇」なんていう領域じゃないと思うんだ。
こんな色気たっぷりな人に素肌でモロにくっ付いて真っ赤にならない人がいたら見てみたい。
あんまり恥ずかしかったから一気にヒソカから離れてプールから上がった。プールに長く浸かっていたせいか足元がふわふわする。
ヒソカも後ろから付いてきてプールから上がった。
「ほら、上がったらすぐ髪を拭かなくちゃ◇」
ヒソカはそばに置いておいたバスタオルを掴むと私にバサッとかぶせる。
そして優しくわしゃわしゃと私の髪をタオルドライし始めた。
男の人独特の優しい力強さで髪を拭いてくれるから、なんだかマッサージをされているようでだんだん気持ちよくなってくる。
あまりの気持ち良さにあと一歩で意識を飛ばしそうになった時、タオルが私の頭から離れた。
「何?そんな顔して◆」
恍惚とした表情をしてしまっていたのだろうか。
ヒソカはなんだか楽しそうに私の顔を覗き込んで聞いてきた。
「き、きもちかった・・・。」
「家帰ればもっと、」
「学校での下ネタ厳禁でーっす!」
気持ちよさにプールに上がった時の足元と同じくらいふわふわしていた頭が、ヒソカの発言によって覚醒した。
私の必死さが面白かったのか、ヒソカはまた低く綺麗に笑った。
「んー、もう少しだけ泳ぐ練習しようと思ったけど・・・・◇唇がちょっと紫色になってきたね」
ヒソカの長い人差し指と中指が私の唇にそっと触れる。
そこからヒソカの熱が伝わってきて心臓がうるさい。
「着替えて帰ろっか◆まだ明るいし、うち寄ってきなよ」
「う、うん。」
唇に触れていた手が私の頭に移動して、にっこりと笑みながら撫でられた。
ヒソカだけが余裕なのがちょっと悔しいけど、ヒソカに対して私が余裕になれることはこれからも無いだろうと心の中で自分に言い聞かせて諦める。
とりあえず今は濡れて下りている髪のせいで、いつもよりも色気が増大してしまっているヒソカへのこの心臓のドキドキを止める事に専念しよう。
体中の熱は太陽のせいでなく、彼のせい
(あ、そうだ◆明日もプール借りてあげるから、バタ足50往復ね) (無理無理無理無理・・・・!)
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