いつだったか、シャルに「誕生日はいつ?」と聞いたことがあった。

けれど彼はお得意の笑顔で「知らない」と言った。


流星街で育った彼は、自分の誕生日を知らない。



あの時の寂しそうな横顔は、私の心の中に残っていた。








「完璧だ・・・!」



思わず声に出して自画自賛してしまった。


2人用の小さなバースデーケーキに、ちょっとしたプレゼント。部屋の飾りつけは間に合わなかったけど、とりあえず出来る限り掃除をして綺麗にした。

もう彼が帰ってくる時間だから、玄関でクラッカーを構えて待つことにする。


驚いてくれるかな、喜んでくれるかな、笑ってくれるかな

そんな期待を膨らませた。




「あー、疲れた。ただい・・・、」

「おめでとうございまーす!」



ガチャリ、と扉が開いてシャルが入ってきた瞬間に構えていたクラッカーの紐を引いてパァーンッと気持ちよく音を響かせた。

一瞬シャルは驚いたように目を点にして、そして数秒後ににっこりと笑む。

やった、喜んでくれた!大成こ・・・・




「え、何?何様なの、ナマエ?俺疲れて帰ってきてるのにいきなり嫌がらせなんて良い度胸してるじゃない。」



大 失 敗 ・・・ !



「ちょ、ちがっ!そうじゃなくて・・・!」

「へぇ、ふぅん、そう。どこが違うの?簡潔に述べてみなよ。」

「首が絞まる・・・!」



私のシャツを両手で思いっきり掴んでシャルは私の首を絞める。しかも笑顔を絶やさずに。

やばいぞこれはマジでキレてる。早く誤解を解かなくちゃ・・・・!



「誤解です・・・!」

「だから理由を、」

「シャルの誕生日祝い!」

「・・・・は?」



またさっきのクラッカー攻撃を食らった時のようにキョトンとするシャル。

私のシャツを掴んでいる手の力が少し抜けた。




「俺の・・誕生日祝い・・・?」

「うん。」

「だって俺誕生日は知らないって・・・、」

「うん、だから勝手に考えた!」



完全に私のシャツから手を離されたと同時にピースをしてそのままシャルの手を掴んでリビングへ向かう。



「前にシャルに誕生日を聞いた時にね、知らないって答えたでしょう?」

「うん、だって知らないし。」

「だから考えたの。」



もし自分が自分の誕生日を知らなかったら

自分が主役になれる一年に一度の特別な日を知らなかったら


バースデーケーキもプレゼントも「おめでとう」の言葉も与えられなかったら、どんなに寂しいか



「凄い嫌だな、って言う考えに辿り着きまして。」

「なんか単純な答えに辿り着いたんだね。」

「・・・・失礼な。」



テーブルの前に座って、シャルのために作ったバースデーケーキをシャルの前に置く。

プレゼントもその横に置いて、シャルに目を合わせた。



「ハッピーバースデー、シャル!」


もう一個予備に置いておいたクラッカーを盛大に鳴らした。


相変わらずシャルはまだきょとんとした顔をしていて、誕生日ケーキとプレゼントを交互に見る。

そしてようやく自分の中で整理が付いたようで私を見た。



「・・・・だからって、何で今日?」

「あれ、予想外の返事が。普通はありがとうとか・・・、」

「何で今日?」

「・・・・ほら、だってシャル『ナナキュウ』みたいな!」



思いっきり無視された事に苦笑いして、傍にあった紙にシャル7ー9、と書くとシャルも苦笑した。

ホント単純馬鹿、とまで言われた。


でもシャルはプレゼントを掴んでとても嬉しそうに笑ってくれたんだ。




「ありがと、ナマエ。」


嬉しい



シャルはいつもとは違う、ただただ純粋な笑顔で笑った。




生まれてきてくれてありがとう

(ケーキは手作りです!)
(食べられる?)
(たぶん!)

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