HH:4月 新しい扉

今年の始業式は桜がちょうど良く満開になりました。

暖かい日差しと春らしい緑の香りがいっぱいの風の中で、無事進級を手にした私は今日から3年生になります。



「うそだ・・・・、」


そんな爽やかな気持ちもつかの間。

新学期早々茫然と掲示板の前に立ち尽くしてしまった。

今日くらいは遅刻をしないようにと早めに家を出て無事学校に着いた私は掲示板に貼り出されているクラス表を眺めていた。

が、5分眺めても私の名前が見つからない。

あっれぇ、おかしいな。進級できてなかったかな。いや、春休み前に進級をするために死ぬほど追試と補習を受けて先生からゴーサインをもらったはず。嬉しすぎて泣いたから間違いない。私は進級できているはずだ。

それともあれか、ギリギリ進級決まったから先生が入力し忘れたんだろうか。

全力で脳を回転させながら職員室へ足を進めようとしたときだった。



進めようとして方向転換した私の目にみょうじなまえの文字が写った。


いや、そんなはずはない。そんなことがあってはならない。

だって一枚だけ他のクラス表とは別に、職員室横に貼り出されているクラス表は、Sクラス。

すごく危ない、スペシャルヤバい。ともかく色んなSが集まる、ある意味掃き溜めクラスのはず。


そんなヤバいクラスに私の名前があるはずがない。大事なことだからもう1度言おう。あってはならない、のだ。



「うっそなんで!何の冗談なの!」

「書いてあるんだよ、これが◆」

「ヒソカ・・・!」



絶望に打ちひしがれていれば、背後から特徴のある男声。

ばっ!と振り返れば、そこには危険人物として5本指に入る男(まあ実際5本以上指は必要だが)だった。




「や◇久しぶり」


怪しい、でも色気たっぷりの視線が私の視線とぶつかった。

ヒソカとは家が近いためお互い認識がある。というか幼なじみだ。

なんだかんだで小さい頃から一緒にいたのでヒソカに対して恐怖心を持ったことは無いけれど、年を重ねるにつれて増していく色気と怪しさにはゴクリと息を飲んでしまう。

ちなみにヒソカはもちろん、入学当初からSクラスだ。



「同じクラスだね◇」

「絶対違う!絶対先生のミスだよ!」

「Sクラス表にミスがあるはずないだろう◆?」



・・・・確かにその通りだ。何度も言うがSクラスのクラス表に間違いがあってはならない。間違ってSクラスの人間が一般クラスのA組とかB組に振り分けされでもしてみろ。

死ぬ、確実にみんなの精神力が死ぬ。



「・・・・・・・。」

「そんな青い顔で固まるなよ◆」



私の耳の傍まで口を近づけて低い声でそう囁く。あまりの色っぽい声に鳥肌が立った。



「耳元で言うな!私先生に抗議して・・・・!」

「その必要は無いぞ。」



ヒソカの声や仕草から逃げようと、職員室へ体を反転させる。それと同時に響いたヒソカと違う声。



「クロロ先生!」

「やぁ◆クロロ」

「ヒソカ、先生を付けなさい。」


しょうがない奴、とヒソカの声にため息をつきながらクロロ先生はこっちへ歩んでくる。

まだ若いのに優秀と謳われているクロロ先生。生徒からも人気が高いクロロ先生。


そして、あの最強のSクラス担任。



「なまえ、お前のSクラスへの振り分けは間違いじゃない。」

「な、何で・・・・!私なんかしましたか?!」



去年私は何かした?

学校の備品を壊した覚えは無い。誰かを虐めた覚えも無い。何一つ、悪い事をした覚えは・・・・



「強いて言うなら頭悪いくらいだし!」

「自分で言ってて悲しくならないか。」


悲しいけど。

う、と言葉を詰まらせたら横でヒソカがクスクス笑った。失礼な奴め!

でもそんなことは今はどうでもいい。だって最後の学校生活を波乱万丈で送るなんて。


笑いながら横で私の様子を見ていたヒソカは私の事を見定めるような目で見る以外、何も言いはしない。

ヒソカのような問題児が山ほど居るクラスで、私は学校生活を送れる自信が無い。

やっぱり断ろうと、両手を握り締め、下を向いていた顔を上げてクロロ先生を見た。



「私、そんな危ないクラス・・・、」



行きたくない


その言いかけた言葉の続きが言えなかった。

だってクロロ先生がどうしようもなく冷たい目をしていたから。




「何か勘違いしてないか。」

「・・・え?」



首をかしげてクロロ先生は私の傍まで一歩一歩近づいてくる。



「Sクラスは確かにクセのある奴ばっかりだ。クセの無い奴なんていない。けど、他の一般クラスの奴らと他に変わるところは無い。不器用な奴が多いだけ。それも知らずにそのクラスの価値を決め付ける権利なんて。お前にはない。」

「っ・・・!」



何も言い返せなかった。クロロ先生の言った事は正しかったから。噂が一人歩きする事だってある。その証拠に、ヒソカだって優しい面は持っているからクロロ先生の言うことを否定できない。


真剣に言うクロロ先生の目が見れなくて、隣にいるヒソカへを目をそらしてしまった。壁によっかかりながら腕を組んでいるヒソカは私と目が合うと一瞬だけ目を開いたり閉じたりしたけど、すぐにいつものニヒルな笑みを浮かべて何も言わない。

ヒソカは優しい。それは昔から知っている。

でもヒソカは干渉しない。自分が1番だからだ。

ヒソカから恐る恐るクロロ先生へ視線を戻すと、もうクロロ先生の瞳からは冷たさが消えていた。



「悪い奴はいない。」



それをこの一年で感じ取ってみろ



そう言ってさっきとは真逆の優しい笑みをこぼしながら頭を撫でてくれたクロロ先生の手は誰よりもあたたかかった。



クロロ先生が去った後、ヒソカに手を引かれ他のクラスとは離れた特別校舎に向かった。


トクトクと高鳴る鼓動。

本当にヤバい奴ばかりではないんだろうか。クロロ先生にああ言われても不安が拭い切れない。




「大丈夫だよ◇」



若干震えている私の手を優しく少しだけ強く握るヒソカ。



ボクがついてる◆


その言葉が耳に響いた瞬間、新しい世界への扉は開かれた。




ようこそ、Sクラスへ

(誰だお前)
(今年からSクラス?)
(こっち見んなよ)
(うあああやっぱり普通のクラスに行きたい!)

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最後のは上からノブナガ、シャル、フィン、なまえちゃん。これから1年、頑張ってね!

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