君を知った日
「・・・・あかん、頭痛い。」
「頑張れ岸本、私は目が痛い。」
「阿呆。目なんてとっくの昔から痛いっちゅーねん。」
「・・・・・・・。」
なんかごめん。
そう岸本に心の中で謝った。
今私と岸本は宿題を持ってこなかったペナルティで居残りをさせられている。
私と岸本は先生に主張した。
違う、持ってこなかったんじゃない。やってこなかったんだ。むしろ今日提出という事実を忘れていたんだ、と。
やる気はある。だから明日までにやるから居残りは勘弁してくれって頼んだのに「聞く耳持たん!」と一刀両断された。酷いよ先生。
まぁそんなこんなで放課後こんな状態になりました。
隣に居る岸本は私より色んな意味でキてしまっている。・・あ、目が充血してる。
「はよ終わらせんと南にシバかれる。」
「南くん?」
「おう、お前の嫌いな南。」
「き、嫌いじゃないよ!」
聞き捨てならない!と私はシャーペンを握り締めて岸本に断固抗議。
私は断じて南くんが嫌いなんじゃないんですよ!
「へぇ。お前俺が南とメシ食ってたり話したりしてると絶対来ないやん。」
「ん、まぁ・・・・。」
「どこがダメなん?」
岸本は一旦シャーペンを走らせる手を止めて(いや、結構前から止まってたかもしれない)私の顔を覗き込んだ。
「どこがダメって・・・・。・・・・・。」
・・・どこがダメなんだろ。
顎に手をやって考えてみる。
目つき?・・うーん、ちょっと違う。
俺は一匹狼やねん、的な雰囲気?声かけんな的な?
そうだな、それが一番近いかも。
「独特の雰囲気ですかね。」
行き着いた答えを岸本に言ってみた。
「雰囲気なあ。・・アイツ結構意外に可愛いとこあるんやで。」
「・・・・かわいい?・・・・え、ごめん、どの辺?」
椅子の背に寄りかかりながら岸本は言う。
授業中とか、休み時間とか、よく岸本が南くんと一緒にいるところを見るけど、南くんが可愛いと思えたことは一度もない。なんか常に無表情だし、ケンカっぱやいし。
彼のどこが可愛いのか説明していただきたい。
「んーとな。例えば俺が試合中に怪我をしたとするやろ。そうすると南の奴、めっちゃ怒るねん。何怪我してんねん、とか。阿呆ちゃうか?とか。」
「・・・怖いじゃん!」
「いや待てって。話はこれからや。」
チッチッチ、と得意げに岸本は人差し指を横に振る。
「そんでな、アイツんち薬局やねん。昼間はめっちゃキレてた南が夜ウチまで来て『ほれ、これ良く効くから塗っとけ』って薬とかくれるんやで。」
「・・・・えぇ何そのツンデレ加減!め、めっちゃ可愛いじゃんか!」
「な!可愛いとこあるやろ!視線合わさずに照れ隠ししながら薬渡してくるんやで!アイツ実はめっちゃかわい・・・、」
「誰が何やって?」
普段の事を考えるとそのギャップとツンデレ加減に思わず叫んだ。岸本も一緒にテンションが上がって叫ぶ。
けれど叫んだ瞬間に私と岸本の後ろから聞きなれた声。
岸本と一緒に瞬時に固まり、お互い目を合わせて恐る恐る振り返ると、そこには部活中のはずの南くんの姿。
「み、南・・・・。お前、部活どないしたん・・・・・。」
「阿呆。時計見てみ。もう部活終了時間や。」
「・・・・げ!本当だ!いつの間に?!」
南くんに言われた通り、時計に目を向ければもう七時を回っていた。
ワァオ、私たちどんだけ居残り頑張ってたのよ。しかもこんな時間なのに補習プリント半分くらいしか終わってない。
もう諦めよう、とため息をついて南くんに視線を戻した。
「・・・・ちなみにどの辺から聞いてました?」
私たちの会話、と繋げたら南くんは鞄を背負いなおして口を開いた。
「岸本が『お前の嫌いな南』って言ったとこくらいから。」
「ほぼ最初からやないか!何でもっと早く声かけへんねん!」
「いや、なまえさんが俺のこと嫌い言うからどこがアカンのかな、と。」
「「・・・・・・。」」
若干照れくさそうに視線をそむけて言う南くん。
あ、どうしよう。この人可愛い。純粋に胸にドキュンときてしまった。
「な、めっちゃ可愛いやろ。」
「可愛い言うなボケ。」
南くんの肩を抱きながら岸本は笑った。南くんはやっぱり照れていて岸本に離れろと言いながらも満更で無さそうな顔をしていた。
こんなに可愛くて良い人をどうして近づきがたい存在だと思ってしまっていたんだろう。
「み、南くん!ぜひお友達に!」
「・・・・おう。」
思わず右手を差し出して握手を求めれば、南くんは戸惑いながらも応じてくれた。
Sクラスへ入って約5ヵ月。またお友達が増えました。
君を知った日
(ところでお前ら補習プリントどないすんねん。) (・・・・手伝ってくれませんか。) (もう俺ら目も頭も痛いねん。)
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