それは2年の夏の終わりのお話で

「もうちょっともうちょっと・・・・、」


もうちょっと、と自分を鼓舞しながら一心不乱にノートの上にペンを走らせた。

今は夜の7時過ぎ。私は1人課題の提出が間に合わなくて必死に先生に指定された教室に居残って課題を終わらせようとしていた。

別にやらなかったわけじゃない、ただ単純に難しくて終わらなかった。先生はそれを理解してくれる人だったので、今日中に終わらせて職員室の机の上に置いておけば評価をしてくれるというから頑張ることにした。

あとちょっと、もう少しで終わる。帰ってご飯を食べたい、お腹減った、帰りにアイス買って帰ろうかな。そんなことを頭の隅で考えていると、廊下で誰かが歩いている音が耳に届いてきた。それと同時に声もする。男の人の声だ。

見回りの先生かな?そう思って一度顔を上げて廊下の方を見る。と言っても、ドアが閉められているから外を見られるわけではないんだけれど。

足音は1つなのに声がするってことは電話、かな?そんなことを思いつつまた課題を終わらせるために視線をノートに向けてペンを走らせる。



「だーかーら、それは俺がやるっつってんだろ。」


何度も言わせんなよ馬鹿、という乱暴な言葉が耳に鮮明に届いた瞬間、その暴言を吐きながら誰かががらりと教室に入ってきた。教室に入ってきたってことは生徒かな?何か忘れ物をしたのだろうか?

ふと顔を上げてそちらを見る。すると、さっきの暴言からは予想もできない人物が私の視線の先に立っていた。



「・・・・あ。」

「・・・・え。」


この学校のバスケ部に所属している藤真くんだった。

その外見からみんなに王子と言われているし、私もそう思っていた、んだけど・・。それにしてもなんでSクラスの彼がこの一般クラスに足を運んだんだろう。

視線を外せないまま固まっていると、藤真君は頭に手を持って行ってバツが悪そうに頭を掻きながら口を開いた。



「・・・・あー・・。聞こえてた?」

「・・・・な、ん度も言わせんなよ馬鹿・・?」


のことですかね・・?と恐る恐る口に出せば、藤真君は大きく「ハァ、」とため息をついた。なにそれちょっと私がつきたいくらいだよ!といいたいけれど、一度も話したことのない王子に対して言う勇気がない。

もやもやしていると、藤真君は電話の相手に「またあとでかけ直す」と言って電話を切った。



「聞かなかったことにできる?」

「いーよ、別に。」


私にメリット無いもん、と素直に言えば、藤真君はなんだか鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした(ちなみに鳩のことわざは今さっき覚えた言葉)。

え、私なんか変なこと言ったかな・・?とひやひやしていると、藤真君はなぜか笑い出した。



「ハハ、お前面白いな。」

「なんで?」

「自分で言うのもなんだけど、その代わり何かしてって交換条件出されるかと思った。」

「あー・・、王子の弱み握れたら最高だもんね。」


確かにそうだわぁ・・と思わず声に出せば藤真君は何がおかしいのか普通に笑い出した。何この人本当に失礼!みんな間違ってる!こいつ王子じゃないよ!

キー!と持ってるシャーペンを思いっきり握りしめていたら藤真君はそんな私の目の前を通り過ぎてこの教室にある先生専用の小さな机の上にある名簿を手に取った。

俺これ取りに来るためにこの教室来たんだよね、と私が何も聞いていないのに教えてくれる。そして私のそばまで来て、私の座っている机の前の席の椅子を引いて横向きに座り、私の机に右腕を置いて頬をついた。



「素直なバカだなおまえ。」

「いきなり目の前に来て悪口!失礼!私藤真君がこういう人だと思わなかったよ!」

「噂が勝手に一人歩きして、俺がそれに乗っかっただけだ。」


だって態がいいと何かと便利だろ、ときれいだけど悪そうに笑む。

確かに、馬鹿で性格が悪い生徒よりも、頭が良くて性格がいい生徒の方が先生も甘やかしてくれる。そうかぁ、藤真君はそういうのにうまく乗ってるから要領がよく進んでいるんだね、と理解した。



「藤真君て怖いね。」

「俺みたいなやつはSクラスにいっぱいいる。」

「私Sクラスじゃないんで。」

「来年来いよ。お前面白い。」

「嫌だよ。」


あそこいろんな人が混ざりすぎててカオスなんだもん・・!と言えば、そうだな。と藤真君は同意する。

それでも藤真君はSクラスは他のクラスよりも面白いと言い切った。



「こんな時間まで補習してるってことはお前結構バカだろ。」

「く・・・!」

そして私の話を中断して、私がバカだと言い放ってくれた。悔しいけど、事実だから反論できない自分が憎い。

うー・・!と1人唸ってるとハハ、とまた笑ってポンポンと私の頭を撫でた。



「馬鹿すぎても来られるかもしれないぜ、Sクラス。」

「そうならないように今必死に課題やってるんです!」

「まぁまぁ、何度も言うけど、そう悪いもんじゃないぜ、Sクラスも。」


俺みたいな完璧人間もたくさんいるしな、と藤真君は笑った。

自分を完ぺきというのもどうかと思うけど、確かにあのクラスには仙道君とか神君とか赤木君とか文武両道の人もいれば私みたいなバカとかヤンキーもいる。本当に変わったクラスなんだよな、と藤真君を見た。



「藤真君はSクラス楽しい?」

「藤真でいーよ。中身バレたし。・・楽しいぜ、普通じゃねえもん。」

「私は普通がいいんだよ藤真。」

「そーいやお前名前は?」

「(無視・・!)みょうじなまえ。」

「なまえね。」



待ってるから、来年同じクラスでな、と藤真は先生の教卓にある名簿を手に取って教室を出て行った。



それは半年前に交わした言葉
(やっぱりSクラスになったななまえ。)
(うわああああああなんでええええ!)

****
ピーターの4月の第1話の時に藤真とは夏にあったという布石を置いといたんですが、ようやくその話をかけました。偶然彼の本性を知るなまえちゃん。この時からもうSクラスに足を踏み入れてたんですね。

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