国語のテストを返却します

その日は嵐の後にやってくる、更に巨大な旋風が巻き起こる日だった。そう、今日はテスト返却日だ。

私は今日家から出るのが怖かった。それでも勇気を振り絞って通学路を歩み、正門を越え、自分の教室まで来た。するとどうだろう、私以上に憂鬱そうな顔をしたやつらがいた。

そうだよね、自信ないよね。これダメだったら「こんにちは補習」だもんね。あ、涙出てきた。

そしてそんな私たちをあざ笑うかのように時間が過ぎていき、最初のテスト返却の時間がやってきた。科目は国語。担当教師は我らがクロロ先生。

クロロ先生が教卓について、私たちを一望した後、深いため息をついたのを見た瞬間、Sクラスの一部の生徒が崩れ落ちた。



「クロロ先生、俺赤点以下の点数が書いてある答案はいらねぇ。欲しくねぇ。」


唯一、Sクラスの問題児が先生の事をきちんと「先生」と呼ぶ授業の時間。

それはこのクロロ先生の国語の授業である。あとは世界史もクロロ先生が私たち担当だけどそれはまた別の話だ。今は国語に集中しないと精神がやられる。いろんな意味で。



「ほう、そうか残念だな。じゃあこの汚い字でフィンクスと書いてある答案は焼却炉行きだ。」

「赤点かよ!」


フィンは思いっきり机に突っ伏した。横でフェイがあざ笑うかのように鼻で笑う。



「フェイ。お前は赤点ではないが32点だぞ。ギリギリだ。あまりフィンと大差ない。」

「32点だろうが何だろうが赤点じゃなかたら良いよ。」


追試は免れるね、とフェイは目を細めた。

そしてフェイはその目を細めたまま眉間にしわだけを増やして私に目を移した。



「先生。早くアイツに答案返すね。抜け殻みたいでキモいよ。」

「・・・・。みょうじ。」

「うぇ?あ、はい。」



放心状態だったために「なんて失礼な奴なの!」返すのが一歩遅れるどころか、先生に呼ばれたせいで言い返せなかった。

答案、と点数が見えないように裏返しのままクロロ先生はピラピラと私の答案用紙を揺らした。

ごくり、と唾を飲んでゆっくり椅子から立ち上がり、すでにテストが返され死亡している仲間の横を通り、そして先生の前へ到着する。

ん、と何も言わずに差し出してくる答案に恐る恐る手を伸ばして目をぎゅっと瞑り、答案を表にしてからゆっくりゆっくり目を開く。



「さんじゅってん・・・・!」


そこには間違いなく30と書かれた数字。ここ数日、何よりも欲しかった数字。それがそこに記されている、なんて。



「やった!赤回避!」

「「「なにぃ?!」」」


私の歓喜の叫びに、瀕死状態だったノブナガ、ウボォー、フィンクスは勢いよく起き上がる。

そしてダダダダダッ!と近づいてきて私の右手にあった答案用紙を奪い取ったのだ。



「あ、ちょ、返してよ!額に入れて飾るんだから!」

「みょうじ、それはやめなさい。」


見た人が悲しむ、とすぐ近くでクロロ先生が盛大なため息をついて私の事を制止した。



「なまえが俺を裏切るだと・・・?!」

「間違いがあるはずだ!」

「採点ミス探せ、採点ミス!」

「ああああやめて!」


やめてそんなの探さないでもうそれでいいのよやめて!と答案用紙に向かって必死に手を伸ばすけれど、私より遙かに背が高い彼らに届くはずが無い。

その上より届かないように手を上に上げられれば尚更だ。




「・・・・・ん?」

「これ、おかしくねぇ?」



フィンの声に皆が私の答案用紙を覗き込む。


特に変哲の無いバツだらけの答案用紙。だけどその採点に不自然な所があった。

一度赤ペンで×にされているところがその上から○と訂正されており、だがその上からまた青ペンで×印。その上からまた○と訂正されているのだ。


まるで何度も何度も×にするのを躊躇ったかのよう。


そこに記されていたのは、



「問3、以下の空欄に当てはまる文字を入れよ?」


□肉□食


・・・・・。



「わかんねぇ。」

「弱肉強食だよ。」



横で呆れ顔で見ていたシャルが突っ込む。

わかんねぇと呟いていたウボォーは「あぁそうか。」と感心したように顎に手をやった。



「ちょっと待て。答えは弱肉強食だろ?」

「焼肉定食って書いてあるぜ。」



・・・・・・・。


ノブナガとフィンの発言に、Sクラスは一時の静寂を迎えた。

私の答案用紙を見ていたやつらも、席についてこちらの様子をうかがってたやつらも、みんな私に視線を集める。

あまりの静けさと、あまりの視線とに耐えられなくなった私は「てへ」と笑ってみた。

笑った瞬間、フィンに近くにあったノートでスパーン!と思いっきり殴られた。



「いったー!何すんの!?」

「なんでだよ!ありえねぇだろ!バツだろバツ!」

「そうね先生!アンタ頭おかしくなったか!」

「うるさい黙れ。俺がルールだ。」



暴れだすフィンとフェイにクロロ先生は声で圧力をかける。


それでも間違っている!だの、贔屓だ!だの、騒ぐ声の音量は下がることを知らない。



「・・・・みょうじは間違っていない。」

「は?!間違ってんだろ!」

「間違っていない。」


クロロ先生は頭に手をやって深い深いため息をついた。

そして何かを覚悟したように口を開く。



「俺は、『空欄の中に当てはまる語句をいれよ』と問題に書いただけで、その四字熟語に関しての意味を書いていなかったんだ。」


俺のミスだ、というクロロ先生の低く小さい声に、またSクラスに静寂が戻った。



テスト返却も戦場です
(はあぁぁぁ?!)
(それで焼肉定食でも○なのか!?)
(マジかよ!俺もあの時焼肉定食しか思いつかなかったんだよ!書いときゃ良かった!)
(ほーら私合ってるじゃん!答案返してよ!)
(先生、俺帰って良い?)
(我慢しろ、シャル。)

****
補足すると最後の上の会話はフィン、ノブナガ、ウボォー、なまえちゃん、クロロ、シャル。
焼肉定食って小学校時代のあるあるネタですよね。史上最高にくっだらない話を書いてしまった。

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