SD:3月5日 卒業

一昨日は思いっきり泣いて、しょうもないことを言って子どもみたいにぐずって南君たちを困らせてしまった。

勝手に情緒不安定になって南くんに当たってしまったのに、あの後南くんは怒らなかった。

怒るどころか頭を撫でて私を落ち着かせてくれた。

大ちゃんもミッチーも、魚ちゃんも優しく困ったように「しょうがない奴だなぁ」と笑ってくれた。



昨日は泣きすぎて目が腫れてしまい、腫れたまま学校に行ったら皆に驚かれた。

理由を話したら皆も一昨日の4人と同じように笑って、特に花道とノブは慌てまくって涙ぐんでた。



「なまえさん大好きッス・・!」

「俺たち、なまえさん達と1年一緒に過ごせて、凄く楽しかったッス・・・!」


そう言われたときは枯れ果てたはずの涙がまた沸いてきて泣きながら2人に抱きついた。

こんなかわいい後輩に恵まれて私は幸せだと思う。周りに居た藤真や仙道には「まだ泣くには早い」と笑われた。



そして今日、卒業式を迎えた。

無事に卒業証書ももらえて、後輩たちに見送られつつ教室に戻ってくると行く時は無かった卒業証書入れと卒業アルバムが机の上に置かれていた。




「卒業アルバムが机の上においてあるーう。」

「テンションおかしいなお前。」

「泣きすぎと寝なすぎでおかしいかもしれない。」


藤真の突っ込みに親指を立ててうなずた。

卒業式はどうにか泣かずに済んだけど、やっぱり歌を歌った時は危なかった。

泣いてしまおうかと思ったけど、最後の学校の姿を目に刻んでおきたくて涙は堪えた。


そんなことを思っていると横から嗚咽が聞こえてくる。



「俺・・っ!マジで、卒業できてよかった・・・・!」

「岸本泣きすぎ。」

「いや俺も岸本に同感。」


右手を口に手を当てて、左手で卒業証書を握り締める岸本がいた。私は苦笑して突っ込んだけど、ミッチーも岸本に同意して首を縦に振っていた。

まぁそれを言うなら私もそうなんだけど。

そうなんだ、けど。本当に、卒業証書もらえて、よかった・・・!と岸本に冷静に突っ込んだくせに自分も泣きそうになる。



「あーでもやっぱりここまで来ると卒業するのも惜しくなるわー。」

「まぁもう卒業証書貰ったから卒業してんねんけどな。」


ツッチーの発言に南くんは冷静に突っ込みを入れた。

まぁな、とツッチーは笑って卒業証書を器用にクルクルと巻く。



「でも俺は土屋の意見に賛成かな。」

「俺もー。」


木暮くんと大ちゃんも会話に入ってくる。

そして大ちゃんは続けた。


「卒業したら、一歩大人になる気がするじゃない?なんとなくまだこのままでいたいって言うか、・・・・なんつーんだろ。」


自分で言い出したのに答えがわからなくなったようで、「よくわかんねーや、」と大ちゃんは苦笑いした。



「ピーターパン症候群ってやつじゃないですか?」

「ピーターパン症候群?」


話を聞いていた宗くんはひとつの単語を口に出す。

涙目になりながら紳一に引っ付いていたノブは宗くんの声に反応して頭にクエスチョンマークを浮かべた。



「ピーターパン症候群っつーのは、まぁわかりやすく言えば大人になりたくない、ずっと子どものままでいたいっていう意味があるんだよ。」


宗くんの代わりに越野が説明をした。

「そうだよな?」と越野が宗くんに確認すれば、宗くんも「そうだよ」と返す。


その説明を聞いて私も完璧なピーターパン症候群だと思った。

ずっとこのままでいられればどんなにいいだろうってここ数日で数え切れないくらい考えたのだから。



「もう腹は括ったけど、やっぱりもうちょっとこのままでいたかった、な。」

「留年するか?」

「ちょっと楓、あんた恐ろしい事さらりと言わないでくれる?」


留年しない為にどんだけ定期テストと追試頑張ったと思ってるの!とお説教をすればツーンと無視をされた。可愛くない!



「気にすんな。コイツはコイツで寂しがってるだけなんだよ。」

「三井さん・・・・。」

「だって本当の事だろ?」


後ろから楓の首に腕を回して笑うミッチーとリョータに楓はちょっと照れくさそうに顔を伏せた。

そんな可愛い所もあるんだなぁと嬉しくなって、私も背伸びして楓の頭を撫でてあげると楓は顔をプイッと背けてしまった。



「なまえさん!流川なんぞは放っておいて、俺とお話しましょう!寂しくなったら呼んで下さい!この桜木花道がすぐに飛んで・・・・!」

「うっせーぞどあほう。」

「なんだと?!」

「卒業式の日までケンカするな馬鹿モンどもが!」


いつもみたいに変わりない会話を交わす2人にタケちゃんは一喝した。


笑っていれば紅白饅頭も配られ始めて、もうこの教室を後にする時間が迫っていることを実感する。



みんなの机に比べればある程度綺麗な自分の机を撫でて思い出す。


このクラスに入ってしまった日のこと、学校行事、テスト、夏休み、冬休み。

どれもかけがえの無い思い出になって私の胸に納まる。




「なぁ、なまえ。3年になっていきなりこのクラスになったのはお前だけだろう?」

「へ?あ、うん。」


花形の問いに我に返って頷く。

周りにはSクラス皆がいてニヤニヤ笑っている。



「え、なに?私なんかした?」

「何もしてないわよ。ただそんななまえに皆で言いたい事があるの。」


彩子がにっこり笑って、晴子ちゃんも笑った。





この1年で大人になれただろうか。

ううん、大人になってしまっただろうか。

大人になっても、みんなで今みたいに笑っていられるだろうか。



そんなことを悩んでもしょうがない。

さよならの時はもう刻々と迫っている。


だからもう時間の流れを拒否する事はやめて、また近いうちにみんなでくだらない会話を出来る事を心から願おう。



卒業するのは悲しいけれど、



<さよならは、はじまりだから>




「君に逢えて良かった」


The end. Thank you so much!

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