HH:3月5日 卒業
いつかこんな日が来るってわかってた。
でも心の中のどこかでそれを受け入れる事を拒んでいた。
今までのことを振り返ると、クロロ先生に怒られたり、追試や補習受けさせられたりの繰り返しでどうしようもない日々だったけれど。
それ以上にみんなと過ごした時間が楽しかった。
皆がいたから乗り越えられた。
皆と過ごした時間はとても愛しい。
今まで、これから。そんなこと考えたくない。
卒業アルバムなんていらない、思い出なんていらない。
だってそんなの貰ったら、私はこれから新しい道を1人で進むことになる。
けれどクロロ先生は言った。
進まない時は無いから、受け入れて進まなくちゃいけない。
壁にぶつかってしまったら、楽しかったこの時を思い出せばいい。
例え離れてしまっても、1人じゃないんだから。
卒業の朝はちょっと肌寒い朝だった。
いつもと同じ朝なのにいつもと違う空気な気がしたのは何故だろう。
毎日寝坊するのに今日はちゃんと起きる事ができた。
それにクラス全員遅刻をしなかったし、卒業式にもちゃんと出た。
奇跡というのはこういうことですか、と先生に質問すれば「悲しい奇跡だな」と笑われた。
卒業式の後、クロロ先生は卒業式が無事に終わった事に安堵いたし、みんなもちょっと照れくさそうに笑っていた。
「結局誰も泣かなかったな。」
「うちのクラスに泣く奴なんかいないね。」
教室を出て、校門付近で校舎を眺めながらフィンは言った。
フェイはクスリと笑いながらフィンの発言に答える。口元はいつも通りマスクに覆われていたからわからないけど目が笑っていた。
「いや、なまえはヤバかったぜ。」
「うるさいなー、昨日死ぬほど泣いたからもう泣かないよ。」
「フライングしすぎなんだよお前は。」
私を見ながら笑うウボォーに照れ隠しでそう言えば、ノブナガは思いっきり笑いながら私の頭をポンポン撫でる。
「それにしてもアタシは卒業式で説教食らうとは思ってなかったね。」
「あー、確かに。」
「最後くらい説教我慢してくれてもいいのにね。」
「お前らが悪いんだろう。」
マチと私とシズクにクロロ先生は思いっきり深くため息をついた。
説教された内容は、私たちのクラスの机の半分が落書きされていたという事。
いや大掃除した日頑張って拭いたりしたんだけど限度っていうものがあったんですよね。油性マジックでの落書きがほとんどだったし。
まぁとれないもんはしょうがないんじゃないって事でその時は終わったんだけど、教師たちの中では終わってくれなかったらしい。
「クロロ先生も隠しておいてくれれば良かったんですよ。」
「馬鹿、どうせバレる。」
「本当なまえは最後まで馬鹿なんだね。」
「うるさいよシャル。」
誰かに貰った花束を右手で持ち、それを肩に置いているシャルはいつも通り笑っていた。
それでもいつもと同じニヒルな笑みなはずなのに、どこか優しく見えるのは卒業式マジックというものだろう。
「それより私はちゃんとヒソカが学校に来た事がビックリよ。」
「ボクだって最後くらいはちゃんとやるよ◇」
パクの発言に、私の横でヒソカはニコニコ笑う。
そういえば、と振り返ってみればみんなで馬鹿やる時はほとんどヒソカは居なかった。
学校にもほとんど来なかったし、会話をする事もほとんど無かった。
初めてSクラスに踏み込んだ時は「ボクがついてる◆」とか言ってたくせに結局ほぼ一緒に居なかった。
嘘つき過ぎる、とじーっと睨めばヒソカは得意げな顔して顔を斜め上に上げた。
「嘘をつくのは僕の専売特許◇」
「卒業式の日まで私の心を読むのはやめてほしいかな。」
「だって顔に書いてあるんだもん◆」
くすくす上品に笑うヒソカは他のクラスの卒業生や後輩たちの視線の的になる。
危ない奴だけど、周りの女子から人気があったというのだから世の中よくわからない。
ヒソカは私を見て続けた。
「それになまえなら大丈夫だと思ったんだよ◇」
「へ?」
「ボクがいなくても、みんなと仲良くなれるって何となく◆」
ボクの読みに間違いは無かったね、と満足げに言うヒソカに苦笑してしまう。
こんなクセのあるクラスでよく1年やってこれたと思う。でもそんなクラスだからこそ楽しい1年を過ごせたんだと思った。
「じゃあこんなとこで油売ってないで打ち上げにでも行くか。」
「こんな所とか言わない。」
フィンに突っ込みを入れて皆でクロロ先生を見る。
「先生は来る?」
「俺は今からまた仕事だ。」
「あぁ私たちの机の後始末ですか?」
「あれはもう新しいのを買う。」
蹴ったり投げたりしたせいでボロボロだしな、とクロロ先生は腕を組む。
クロロ先生曰く、次の年のSクラスの生徒のチェックをするらしい。
またSクラスの担任なんですね、と苦笑すれば先生は「まぁな」と笑った。
「最後に担任として言っておくが・・・、」
「他人に迷惑かけんな。」
「もう俺はお前たちをかばえない◇」
だろ?とクロロ先生の言葉をさえぎってノブナガとヒソカはしてやったり、という顔をした。
クロロ先生は一瞬目を点にさせた後に眉を下げて口元を上げた。
「ちょっとは学習能力付いたんだな。」
「うるせぇよ。」
ノブナガはククッと低く笑ってからクロロ先生にひらひらと手を振って背を向けた。
マチも、フィンも、ウボォーも、パクも、シャルも、ヒソカも、シズクも、フェイも、他の皆も背を向けて歩き出す。
みんなは先生に「さようなら」と口に出さなかったけど、それはみんなの性格からして恥ずかしいんだろう。
それにクロロ先生はちゃんとわかってくれてる。
私は「さよなら」なんて言わないけど、精一杯笑って頭を下げ、手を振って学校を後にした。
またね!
<進む道は違えども、>
<進む時間はずっと一緒>
The end. Thank you so much!
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