SD:3月3日 拒んだ流れ

「あー、つっかれたー!」

「本当だな。」

「もう肩も腰も腕も足も痛い。」



暗い帰路で私が言い放った声に一緒にいた魚ちゃんと大ちゃんが相槌を打った。


今日は学校で大掃除をした。

日々の行いのせいか、他のクラスより汚れたSクラスを掃除するのは思いのほか大変で、しかも日々の行いが悪いせいで倉庫の罰掃除もさせられ、仕舞いには卒業式練習にサボって出なかった奴に付き合って卒業式練習もさせられてしまった。



「大ちゃんがちゃんと出なかったせいだよ。」

「違うって。いや、俺もそうかもしれないけど南と岸本だって出てなかったじゃない。」

「俺らだけちゃうぞ。藤真も深津も、その他もろもろも出ぇへんかったやん。」


つまりは連帯責任や、と南くんは言った。

それはちょっと違う気がするんだけど・・・・。



「でもあと2日であの学校とおさらばなんて信じられないよな。」


私の横を歩いていたミッチーがボソリと呟いた。


確かにそうだ。

つい最近3年になったばっかりだと思っていたのにもう卒業なんて早すぎる。

高校生活はめまぐるしい3年間だったけれど、中でもこの1年間は毎日が濃くて何より時間が過ぎるのがとても速く感じた。



「何が1番楽しかった?あ、部活以外でね。」


3年間だと多すぎるからこの1年の中で1番の事でいいよ、と大ちゃんは言った。



「球技大会。」

「文化祭。」

「まぁその2つのどっちかだよね。」


魚ちゃんとミッチーの意見に私も同意する。大ちゃんも南君も「だよな。」と同意見なようだ。



「でもやっぱりテスト前に皆で大泣きしながら勉強したのも楽しかったかな。」

「夏休みの宿題で集まったりしたのも、まぁ悪くなかった。」



大ちゃんとミッチーは苦笑しながら言う。


あの時は必死だった。

皆心の中で大泣きしたし、何でもっと早くやらなかったんだろうと自分を呪った。

けど学習能力が低いせいか、毎回毎回テスト前は同じようにみんなで集まって一夜漬けしたりしたし、冬休みの宿題の時も皆で集まって写しあった。

今では良い思い出で何だか無性に笑えてくる。



そう思い始めれば、頭を過ぎる思い出は止まらなくて楽しかった事も悲しかった事も笑った事も泣いた事も全てがよみがえってきた。

それと同時に、出てきてはいけない感情も、出てきてしまった。




「ねぇ、卒業しないといけないのかな?」

「は?」


私の発言にミッチーは目を点にした。

自分でも突拍子も無い事を言ってしまったのはわかっている。


でも思い始めたら止まらない。


楽しかった。

最初は嫌だったSクラスに毎日通う事がいつの日かとても楽しくなっていた。


このまま分かれてお互い違う道を歩むなんて、そんなこと考えられない。

そんなに私は聞き訳がよくない。

『卒業』を自覚したら、いきなり怖くなってしまった。

1人で新しい道を進むなんて怖い。不安すぎる。


この1年乗り越えられたのは皆で過ごしてこれたからであって、1人じゃ無理だった。



「何言ってんねん。お前何のために毎回補習と追試頑張ってん。卒業するためやろ?卒業しないなんてそんなん無理に・・・・、」

「決まってるって言うんでしょ?わかってるよ。」


わかってるけどさ!と、南くんは当たり前のことを言おうとしただけなのに私は思わず声を張り上げてしまった。


魚ちゃんもミッチーも大ちゃんも、南君もビックリしたように立ち止まって私を見る。



「わかってる、わかってるよ・・・・。どうしようもないことくらい。」



どうして私はSクラスに入ってしまったんだろう。

どうして私は皆に出会ってしまったんだろう。


何百、何千もある学校の中でこの学校に、このクラスに入ってしまったんだろう。


出会わなければこんな苦しくて悲しい思いはしなかったのに。



「さよなら、なんて、できないよ・・・・!」



らしくもなくポロポロと涙が零れて頬が濡れる。

誰も何も言わない。



「さよなら、なんてっ言ったら、もう会えな、いかも、しれない・・・・!」



新しい道に進めばそれだけ新しい人と出会って、それだけ新しい人と仲良くなる。


会えたとしても、どんなに仲が良かったとしてもいつの間にか心が離れてしまうかもしれない。

すれ違ったとしても、ずっと会わなかったことによって溝が生まれて会話も出来なくなってしまうかもしれない。

良くても「あぁ、久しぶり」程度の会話にしかならないかもしれない。



そんなの、悲しすぎる。




こんな子どもな私に呆れたのか、それとも私の意見に共感してくれているのかわからない。

もう涙で視界が歪んでみんなの表情もわからない。



気づいて、しまった。



「私、卒業したくない・・・・!」



不変が、ほしい
最初は嫌だと思っていたクラスが、生活が、こんなにも楽しくてかけがえの無いものだと。

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