HH:3月3日 拒んだ流れ

「ほら、キリキリ動け。」

「せんせー、絶対終わらないですよー。」

「そんなことあるわけ無いだろう。」


やれ、とクロロ先生は教室の端に椅子を置いて座りながら本を読み続けた。




ただ今教室の大掃除中。

1年間世話になったんだからちゃんと掃除しろ、とクロロ先生は言うけれど言う本人は全く掃除する気はないらしい。

みんなは大の苦手な掃除をやるのが苦痛のようで怠そうに机を拭いたり床を掃いたりしている。



「おい見ろよ。他のクラスの奴らもう帰ってるぜ。」

「そうみたいだね。」


ホウキを持ちながら外を眺めたフィンにマチはせっせと手を動かしながら棚を雑巾で拭く。

みんながマチくらいせっせと動けば他のクラスと同じくらいに帰れたんじゃないかとは思うけど、そんなこと言ってもどうしようもないので何も言わないでおく。



「お前らがちゃんと掃除すればあいつ等と同じようにもう帰れてたぞ。」

「うるせぇお前だってさっきから一歩も動いてねぇじゃねぇか!」

「昨日ゲーセンでゾンビ撃ちすぎて肩動かねぇんだよ。」



ノブナガも私をと同じ意見だったようで、ボソリと呟いたのをちゃんと聞いていたフィンが返すとノブナガは肩を回す。

朝聞いた話によるとほとんど体力を減らさずにクリアできたらしい。あれ相当難しいのに。



「いや、例えお前らが頑張ってもあいつ等と同じ時間に帰るのは元々不可能だぞ。」

「は?なんでね?」



ちりとりと小箒でゴミを集めていたフェイはクロロ先生の一言に眉間にしわを寄せた。

クロロ先生は本から目を離し、右手の人差し指を立てる。



「その1、お前らが毎日暴れたせいで他のクラスより汚れや傷がある。その2、お前らが日々暴れたことにより罰として倉庫の掃除も任せられてしまった。」

「は?!」

「その3、お前ら卒業式の練習に出てない。よって掃除が終わったら強制練習。」

「はあああ?!」



クロロ先生の話を私が1度中断し、それに構わず続けたクロロ先生に今度はフィンが待ったをかけた。

他のみんなは驚きすぎて固まっている。


クロロ先生は「ふぅ、」とため息をついて本を閉じた。



「はあああ?はこっちのセリフだ。『その1』はともかく、『その2』と『その3』に付き合ってやる俺の身にもなれ。」


いやまぁそうなんですけども。そう言われたら言い返せないんですけども。


でも私はちゃんと卒業式練習出たし、今日残る必要ないと思うんです。

パクもそう。パクちゃんと私と出たし。私とパクは出なくていいと思うんだよ。他の人たちが出ればいい。



「という事で私とパクは帰ってもいいですか。」

「という事で、までの件がよくわからんが却下だ。」

「え、なんで?!」


持ってたぞうきんを思い切り握り締めた。

じゃあ何だ、今まで出た私の時間を返してくれ。普通に皆とサボればよかった。出損じゃないか!と抗議すれば、クロロ先生はみんなよりうまく卒業証書をもらえるぞ、よかったな。の一言で済ませた。

卒業証書を!もらうのが上手だなんて!どうでもいいわ!と心の中で叫ぶ。



「どうせ嫌でもあと2日で『さよなら』なんだ。」



付き合え、といつものトーンで、いつもの困ったような笑顔で言われたのに。


『さよなら』の単語が胸にツキン、と刺さった。

そうだ、卒業って言うのは『さよなら』なんだ。

卒業2日前にそのことにようやく気づけた私はやっぱり馬鹿なんだろう。


でも皆だっていつもと少しも変わらない。

変わらないから、これが永遠に続くものなんだと、錯覚してしまったんだ。



「っ、」


頭に少し重さと温かさを感じた。

黙り込んでしまった私にクロロ先生は気づいたようで頭を優しく撫でてくれている。



「残念だが、止まってくれる時間はないんだ。」


うるさかった教室も静かになってクロロ先生の話に聞き入っている。



「戻りたくても戻れない。進みたくなくても進まなくちゃいけない。」


春が来て、夏を越えて、秋を過ごして、冬がを乗り越えたと思ったらまた春は来る。

同じ季節はやってくるけど同じ時間は戻ってこない。


クロロ先生は優しく笑った。




「楽しかったか?」


一瞬何に対して言ってるのかわからなくて首を傾げると、クロロ先生はまた困ったように笑う。



「4月に入りたくない、行きたくないと言っていたSクラス。楽しかったか?」

「・・・・・はい。」



そうだ。最初あんなに嫌だったSクラスなのに、いつの日からかは学校に通う事がとても楽しくなっていた。

周りを見れば皆も満更で無さそうにはにかんでいる。

あのシャルでさえも笑っていた。


この1年でかけがえないものを手に入れた。

とても楽しい1年だった。

胸を張って先生に「はい」と返せた。


この返事が先生にとっては嬉しかったようで今までに無いくらいの優しい笑顔をしていたから。

私もすごく嬉しくなった。



「よし、じゃあ掃除再開。」


空気をあえて読まず放ったこの言葉に皆はがっくり肩を落とす。


あと少しだけ残された時間を皆と悔いなく過ごすために、文句を言いつつも皆は掃除を再開した。




残された時間
教室掃除も罰でやらされた倉庫掃除も、居残り卒業式練習も終わった頃にはもう日は落ちていて。

とりあえず明日もちゃんと学校に来て、明後日の卒業式もちゃんと出て、卒業証書はせめて卒業式が終わるまで破るなよ、と昇降口まで送ってくれたクロロ先生は笑った。

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