HH:2月 バレンタイン争奪戦

「お、なんか甘い匂いする。」

「作ってんのか。」

「来て正解だったなやっぱり。」

「逆に来て不正解だったんじゃない?」

「腹壊すね。」

「何だお前らどうやって入ってきた。」


フィン、ノブナガ、ウボォー、シャル、フェイの順でキッチンに入ってきた柄の悪い奴らに私は物怖じせずに言い返す。


私はバレンタインデーの為にガトーショコラを作っていた。

渡すのは明日だからバレンタインデーが1日過ぎてしまうけど気にしない。「気は心」って良い言葉だと思うんだ。



それより何よりこいつらは何で家に居るの。

・・・・後ろの方でお母さんが嬉しそうに「GJ」みたいな顔してる。入れやがったな?



「で、何作ってんだよ?」

「ガトーショコラ。」


お母さんをちょっぴり睨みつつも、ちょうど最後にメレンゲを加えるところだったのでそれを入れながらノブナガの質問に答えた。

泡立てたメレンゲの泡がつぶれないようにサックリと切るように混ぜる。



「おぉいいな!」

「・・・・みんなにはあげないよ。」

「あん?」

「はーいフィン君、別に低い声出したって怖くないですよー。」

「・・・・・・。」

「はーいフェイ君、睨んでも怖くないですよー。」



ふふふ、と笑うとフィンとフェイは眉間のしわを深くさせた。

1年一緒に過ごしてきたのだから相手が実は優しい事はわかってる。だから凄まれたって怖くないのだ。むしろニヤニヤしてしまう、可愛いとかとも思ってしまう。

人間慣れって言うしね、怖いね、なんて自分の中で妙な納得が生まれた。



「別にお前の作ったもんなんか食べたいと思ってないね。」

「ふーん。」

「おなか壊しそうだしね。」


フェイの突っかかりに乗じてシャルも綺麗に笑いながら同意する。


ほーう、そうか。絶対あげない。

本当はついでにあげようと思って、ちょっと多めに作ってたんだけど絶対やらない。

型に生地を流し込みながら心の中で強く決心をする。思いっきり頭にきて拗ねようと思ってたところにウボォーの声が耳に届いた。




「俺はほしいけどなぁ。」



ぱっと顔を上げてウボォーを見ればニコニコと優しい笑顔をしてる。

シャルにも見習ってほしいくらいの本当に優しい笑みだ。こんなにも大きくて怖そうなのに心優しいって本当ネズミの国の野獣みたいだよね大好き!と心の中でキュンとした。



「・・・・ウボォーにはあげる。」

「お、マジか。ラッキー。」



ありがとな、と大きな手でポンポン撫でてくれた。私はこれが結構好きだからとっても嬉しい。

するとそんな私とウボォーを見ていた外野が待ったの声をかけた。



「はぁ?!俺は別に文句言ってねぇだろ!」

「そーだぜ!俺もだ!」


フィンとノブナガが反論の声を上げる。

確かにこの2人は失礼なこと言ってない。


ちょっとだけ考えてから「ほしい?」と聞くと素直に2人は「ほしい」と返してきたのであげることにした。


型に入れたガトーショコラを前もって温めておいたオーブンに入れてスタートボタンを押す。



「ほら、シャルもフェイも本当はほしいんだろ?」

「誰が・・・・。」

「シャルと同意見ね。」


ノブナガがククっと笑いながら問いかけると、やはり可愛くない返事が返ってくる。

するとフィンは2人に聞こえないようにこっそりと私に「素直じゃねぇだけだよ」と耳打ちをしてくれた。

本当にいらなかったらあの2人の性格上家まで来たりしない。


そんなおいしすぎる情報を聞いた私は、いつも意地悪されているから意地悪してあげたくなった。



「シャルとフェイの分もあるのに・・、いらないならしょうがないよね、おなか壊されても困るし。」


横目でちらりと見ると2人は固まっていた。

ちょっとは効果があったらしい、何だか嬉しい。にやけそうになる顔を我慢しているとシャルが口を開いた。



「作っちゃってるなら・・・・貰ってやらないこともない、けど。」

「・・・同意見ね。」



これには噴出しそうになった。

どこまで素直になれない奴らなんだろう。

クセがあるからSクラスに居るのはわかってるけどこれはクセがありすぎる。



もうにやけそうになる顔を我慢できなくて思いっきりニヤけながら「しょうがないなぁ」と言うと2人ともクスリと笑った。



ガトーショコラが焼けるまで、あと少し。




甘く感じたら、ちょっと苦い


<進まない時間は、>




<存在し得ない>

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