HH:12月 クリスマス・イヴ
何人かは学期末の追試を受ける結末となったがそれも何とか切り抜け、皆無事に2学期の終業式を終えることができた。
そして今日はクリスマス・イブ。
恋人たちにとっては年に一度の盛大なイベント日である。
ほら、ここにもクリスマス・イブを祝う若者が・・・。
「ああああ!玉止め失敗した!ここまで縫ったのにいいいい!」
「うるせー!ちょっと黙ってろ!」
「なまえもフィンもうるせぇ!手元が狂うだろ・・狂った!やべぇ、縫いすぎた!」
・・・・言わずと知れた、いつものメンバーである。
ここは学校の被服室。
何故冬休みに彼らがここに居るのかと言えば答えは簡単。終業式の日までに出さねばならなかった家庭科の課題、ハーフパンツの作業が終わらなかったためである。
何度か授業をサボったことはあったが、別にやらなかったわけではなかった。
ただ単純に不器用で一向に製作が進まなかったのだ。
「あああ、今日クリスマスイブなのに・・・・。」
「独り身にクリスマスイブなんか関係ねーだろ。」
「ちょ、ノブナガひどい!アンタだってシングルベルでしょ!」
「シングルベル?」
なんだそれ、と横で作業をしていたウボォーが首をかしげた。
ノブナガが私たちの中で一番作業が進んでいて、あとはズボンのゴムの通るところを作るだけである。
「クリスマス限定で使える言葉。シングルベル=独り身。」
そう言うと横でフェイが「くだらないね、」とため息をついた。
「じゃあ君たちはもし今日の作業が無かったら何してたわけ?」
じっと睨んで問いかければ、皆は互いに視線を交わした。
「そりゃお前・・・。・・・何すっかな。」
ノブナガは特に何も思いつかなかったようでフェイに視線を送ったが、彼も特に何も思いつかなかったようで視線を逸らし、そのままフィンへ。
「・・・・ゲーセン?」
「うわ、可哀想に。」
「な!じゃあお前何してたんだよ?」
「私?私はマチ達と買い物という名のデートよ!」
行きたかったなぁ買い物、と天井を仰いで呟けばそれと同時に今日何回目かわからないため息も出てしまった。
「しょうがねぇよ。今年のクリスマスイブは俺たちと一緒に過ごせただけでもありがたいと思え。」
「・・・・・微妙。」
「てめぇこのやろう。」
「いひゃいいひゃい!」
励ましてくれたノブナガに可愛くない返事をすると両の頬を抓られて横に引っ張られた。
びよーん、なんて効果音と共に引っ張られて私はお餅か。
涙目になったところでようやく放してくれて、熱を持った頬に少し冷えた自分の手を持っていった。
「ウボォー、ノブナガがいじめるよー・・・・。」
「そりゃあしょうがねぇ。今のはなまえがいけなかったからなぁ。」
傍に行って告げ口をすると、ウボォーは笑いながら大きな手のひらで頭を撫でてくれた。
今日唯一の癒しである。
そのままふと下を見ると彼の手に視線が行った。
彼の手にある布が少しボロボロになってきている。一体何回間違えて何回解かれたのだろう。
まぁ私も人の事言えないけどね。
手元にある自分の布を見てため息をつくと、私傍にいたノブナも小さくため息をついた。
「それにしても・・・・もう諦めねぇ?俺間違えて縫ったとこリッパーで解いてたら布破れたし。」
「嫌だ!家庭科が電信柱なんて女の子として恥ずかしすぎる!」
「今更ね。」
「だってメンチ先生、諦めずに提出したら3くれるって!」
「何?!」
ノブナガが叫んだ瞬間、と皆も目が輝いた。どうやらこいつらは先生の話を全く聞いてなかったらしい。
努力したらその分はちゃんと認めてあげるわよ、と言ってくれたあの時のメンチ先生は女神に見えた。
「でも通知表にはもうアヒルとか電柱ついてるぜ?」
「後で修正してくれるって。」
「マジか!」
ウボォーの問いかけに答えると、他の皆も少しだけやる気が復活したようで手が動き始めた。
シャクシャク、カタカタ、布が切られる、ミシンが動く。
・・・・それでもやっぱり不慣れな作業にイライラする点もあるようで。
「あ、フェイ。ハサミ貸して。」
「そこにあるね。」
「とって。」
「・・・・。」
「ちょ、投げんな!」
危ない!と叫んでもフェイは自分の手元から目を離さなかった。
八つ当たりをされます。イブなのに。
世の人々は家族と、恋人と、大切な人と一緒の時間を過ごしてるはずなのに。
今年はなんだか、ずっとこんな調子です。
でもそれも悪く、ない
(よーし決めた!1回手ぇ止めて、調理室使ってクリスマス料理作ろう!) (はぁ?あのゴリラ女にバレたら包丁とんでくんぞ?) (だーいじょうぶ!メンチ先生、今日はクリスマスの日しか味わえない料理を食べる為に学校来てないから!) (マジかよ。クソ、今日までに絶対提出とか言っておきながらあの女・・・・!)
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