SD:11月 ある授業風景
「せんせーい。流川君が寝てまーす。」
「放っとけ。」
教科書の重要ポイントを黒板に書く茂一こともいっちゃんはこちらを向くことなく、またチョークを持つ手を止めることも無く、さらりと流した。
寝てることが日常茶飯事だからまあしょうがないかとも思うけれど、私たちを受け持ってる各学科の先生の肝の据わり方はハンパないと思うんだ。
「ほんと、良く寝てるよね。」
大口を開きながら私の隣で気持ち良さそうに寝る楓を見ながらくすりと笑ってしまった。
「寝てる時は天使みたいな顔してんだけどな。」
「こらこらリョータ、そういうこと言わない。」
楓とは逆隣のリョータが頭の後ろで手を組みながら伸びをしながらニヤニヤした。
リョータが起きてるのも珍しいと思うけどなぁと思いつつ苦笑する。
楓は結構起きてても可愛いところあると思うよ。なんだかんだ素直だし、と言えばリョータも少しだけ賛同してくれた。
「あぁでも私も眠くなってきた・・・・。」
「茂一の授業で寝たらうるさいぞ。」
「私基本黒板見ると眠くなるから・・・・。」
「あぁ、俺教科書派。」
リョータも何気に眠かったようで小声で私に話を合わせながら必死に脳を活動させている。
・・・・あ、仙道が首かっくんしてる。
「どうしてこうも先生の声って子守唄になっちゃうんだろうね。」
「それわかる。俺安西先生尊敬してるし、好きだけどあの人の授業マジ死にそうになる。」
「あぁそれわかるー!」
小声で、しかし強く賛成の意を表すとリョータは満足げに頷いた。
「三井さんとか安西先生の授業中超ウケるぜ。目ぇ充血してんの。」
「あの子、安西先生命だもんね。死んでも寝るかーって?」
「そう。でも5限目の晴れた日なんかはもう死に掛けだけどな。」
その情景を思い出したのかリョータは必死に笑いを堪えていた。
確かにご飯を食べ終えてお腹いっぱいの時、しかもぽかぽか陽気の日の5限目に安西先生の授業をやると生きてる人間はミッチーに限らず、ほとんどいない状態なのだ。
しょうがないよね、安西先生の声心地よすぎるもん。
「そういえば安西先生の授業そろそろノート提出だよな?」
「え、嘘?!」
「マジ。どうすっかな、俺のノートミミズだらけなんだわ。」
弱った、とリョータは頭を掻いていた。
ちなみに補足しておくと、ミミズというのは読めない字の連なったものである。本物のミミズではない。ちなみに私のノートもミミズが大量発生だ、どうしよう。
「おいそこ!うるさいぞ!」
茂一がこっちに気づいてしまった。般若のような顔をしてこっちに向かってくる。
思わずリョータと目を合わせて「やべぇ」と意思疎通してしまった。
「何してるんだお前たちは!」
言ってみろ!と茂一は腕を組む。
このSクラスに入って数ヶ月。私もそれなりに度胸と余裕がついたらしい。全く焦る事なく、思ってる事を口に出してしまった。
「いや、眠いなって。それに安西先生のノートも誰かに写させてもらわないといけなくて・・・・。」
「そういうわけで自習にしませんか、先生。」
「馬鹿者!」
スパンスパンッ!
勢いよく教科書を丸めたものが私とリョータの頭を叩いた。
「お前らたるんどるぞ!とりあえず今はちゃんと俺の授業を聞け!」
「聞く気はあるんですけど、先生の声が子守唄にしか聞こえなくて。」
「黒板に書いてある数式が呪文にしか見えなくて。」
「気合いだ!気合いという2文字がお前らの辞書には無いのか?!」
そんなもの、数学の授業に必要ないですよね。
思った瞬間にまた頭を叩かれた。どうやら顔に出てしまっていたらしい。
「よし、決めた。お前らには特別プリントを用意してやる。」
「えぇ?!」
「そんな!」
「うるさい!放課後職員室に取りにこい馬鹿者ども!あと流川と仙道もだ!」
起きたら一緒に連れて来い!と、もいっちゃんは黒板の方へ戻っていった。
ある日の授業風景 (・・・・あぁ、提出物が増えてしまった。)
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