HH:8月31日 仁義なき戦い
「フィンは英語!フェイは数学!なまえは読書感想文!シズクはみんなのサポート!俺とウボォーは自由研究!」
かかれぇ!
そんな気合い十分、いや、必死なノブナガの声が響いたのがもう夜の9時を回った頃だった。
明日から2学期が始まるというのに私たちは肝心なもの、そう夏休みの宿題というものを終わらせていない。
やらずに堂々と学校へ行く、という手も無きにしも非ずだが、そうなると確実にクロロ先生からの鉄槌が下る。それだけは避けたい。
「あ、あたしお昼に他の友達と自由研究終わらせた!」
じゃーん!と5枚にわたるレポート用紙をホッチキスで留めたものを机の上に堂々と出した。
「っなまえ!」
「お前神だろ、そうだな?」
「まぁね!」
ウボォーとノブナガは私の出したレポート用紙を握り締めながら半泣き状態で感動してくれた。
まぁ私が他の皆とやった自由研究と言っても、図書館にあった星座に関する本を丸写ししただけなんだけど。
「にしても何でこの年で自由研究が・・・!」
ウボォーとノブナガが他のみんなの分も私のレポート文を写しながら舌打ちをした。
その発言を聞いたフィンが英語の辞書を乱用しまくっている手を止めずに口を挟んでくる。
「クロロが理科のリッポーに頼んで有機なんとかと無機なんとかについてのレポート提出って課題を自由研究に変えてくれたんだよ。」
「先生付けなよ。でも何で?」
「不特定多数ができないからだと。」
「ハッ。どこの馬鹿ね。」
たぶんうちら、フェイ。
ガリガリガリガリ、そんな効果音と共に眉間にしわを寄せながら数学を解いているフェイには言わないでおいた。
「し、シズクも参加するなんて意外だね。」
どうにかこの空気から抜け出したくて、横でサラサラと英語を解いてくれてるシズクに声をかけてみた。
シズクは飛び抜けて頭が良い訳じゃないけど、「不特定多数」に入るとは思えないし、宿題を溜めるような子じゃないはずだ。
「ウボォー達がシャルやパクやマチに泣きついて軽くあしらわれてるの見たら、なんか可哀想に思えたから。」
「・・・・要は哀れまれたと。」
「うん。」
顔色1つ変えずにそういうシズクを見て、なんだかとっても悲しくなった。
「で、でもね、シズク!マチは私たちみんなの分の家庭科の宿題引き受けてくれたんだよ!」
「あぁ、ぬいぐるみ作成?でもマチのことだからタダじゃないでしょ?」
「・・・・うん。学校始まったら、1ヶ月購買の限定パン毎日奢るのが条件でした・・・。」
「うわー、レベル高いねー。」
大変だね、と人事のようにシズクは興味無さそうに呟いた。
・・・まぁ人事だけど。
でもシズクの言うとおり結構レベルの高い交換条件だった。だって限定パン1つ300円だし、限定だから1日30個。しかも昼休み開始3分後に完売だから入手するのには一苦労なのだ。
だからと言って1日でも買い逃したらマチからの制裁が下る事間違いない。・・・・主にフィンら辺が。
「でもマチは自分の入れて6つもぬいぐるみ作るんだから妥当だと思うよ。」
「・・・・うん。」
そうだよね、と涙涙で頷いた。新学期が始まったら毎日誰かが交代で全力で圧かけながらダッシュして周りの生徒を蹴散らしつつパンを手に入れるしかないなとぺらりと作文用紙を捲る。
「おい、なまえ!お前くっちゃべってないで手を動かせ!手!」
「うるさいノブナガ!ちゃんと書いてるよ!」
目が血走り始めているノブナガの顔はだいぶ酷いものだった。
よく見ればみんな目が血走り始めている。
地獄絵図って言うのはこういうことを言うのかもしれない、と心の中で思った。
バキンッ!
・・・・思った瞬間に、どこかから何かが壊れたような音がした。
目をきょろきょろさせて探せば、音源はフェイがシャーペンを握力で真っ二つにした音だった。
「ウボォーかノブナガ!ちょとこち手伝うね!レポートの丸写しなんか1人でできるはずよ!」
「馬鹿やろう!こっちは1人1人の字体を変えるっていう超高度な技術駆使してやってんだよ!2人でやんなきゃ終わんねぇ!」
フェイがとうとう数学に追い詰められてキレた。それに乗じてノブナガも切羽詰ってキレた。
ウボォーは漢字を書くとき必ず何度も私のレポートを見て漢字の確認してるから書くのが遅いし、フィンも単語を書くたびに辞書を引くから遅いし、まともに解いていってるのはシズクだけ。
こんなんで明日までに宿題は終わるのだろうか。
そんな心配を抱えながら夜は更けていった。
仁義なき戦い (あ!) (なんね!なまえ!) (いちいちキレないでよ!じゃなくて!シズクの宿題写した方が早いんじゃない?!) (・・・・そうか!シズクッ!今すぐお前の宿題を出せ!) (持ってきてないよ。) (取って来いいいいい!)
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