SD:8月22日 ある夏の日

ピーンポーン・・・・・


夜の7時を回った頃、家のチャイムが鳴った。

宅急便だろうと思って、口に今マイブームのオレンジアイスをくわえて、ショートパンツにキャミソールに裸足という夏真っ盛りの格好で玄関の扉に手をかけた。



「はいはい、どちらさ・・・、・・・。」

「やっほ、ってちょ、なまえちゃん!無言で閉めないでよ!」

「いやだってなんで仙道が‥‥。」

「仙道だけじゃないぜ。」

「・・・・あれ、藤真。ん?紳一も?」

「あぁ。」



なぜ家の前に神奈川3強がいるんだろう。なかなか迫力のある3人に思わず口からアイスを落としそうになった。

紳一には「この前もう少しましな格好してから家の外に出ろって言ったろう」とため息をつかれた。しょうがないよね、暑いもん。



「で?何しに来たの?」

「これ、なまえちゃんとやろうと思って。」


誘いに来たんだ、と仙道は何かと右手に持って彼特有の優しい笑顔を見せた。



「あ、花火じゃん!」

「そー。家にあったの。」


ガサガサと一本取り出して私に渡す。

とりあえず今年初めての花火にウキウキした私は、さっきまでの気怠い気分がどこかに吹っ飛んで行ってしまったようで、玄関から親に「庭で花火してくる!」と叫んで庭に出た。

庭に出てバケツに水を汲む。その後、紳一はポケットから着火マンを取り出して私が持っている花火に火をつける。

ジリジリと先がゆっくり燃えて、やがて火薬が詰まった部分に火が行き着いた。



「うっわー。緑だよ、ん?オレンジ?おぉ青!すごいじゃんコレ!色変わるよ!」

「だろ、すげぇだろ!」

「まぁ今時色が変わる花火なんていくらでも売ってるけどな。」


興奮して話す私と藤真に紳一が小さくツッコミを入れた。

そのツッコミに藤真は「む、」と眉を下げる。



「なんだよ夢ねぇな。お前それでも高3かよ。」

「お前は確実に今流行の中二病だろう。」

「俺の心は永遠の14才だからな!」


キラーン、と顎に手をやる藤真は放って置こう。あいつはもうダメだ。あれで王子なんて皆は騙されている。

「どうするあれ」と仙道に視線を送ったら「ほっときなよ」と口パクで言われた。しかも笑顔で。しかも笑顔で(大事な事なので2回言いました)



「ていうか牧。なんで着火マンなんだよ。普通はライターだろ。着火マンでかくて邪魔じゃね?」

「・・・・良いだろ別に。」

「あ、わかった、さてはお前ライター点けらんねぇんだな?」

「・・・・・・・。」

「図星か!」


こりゃぁ傑作だ!と藤真は紳一を指差して腹を抱えて笑った。


また仙道を見れば、今度はただ笑うだけで花火をやり続けている。神奈川3強の中で色んな意味で一番強者なのは仙道だと思う。


仙道に言われたとおり、無視して線香花火をしていると誰かの携帯の着信音が響いた。



「あ、俺だ。」


藤真はポケットから携帯を取り出して通話ボタンを押し、耳に当てる。



「あぁもしもし花形?おう。マジ?丁度良い、わかった行くわ。」


白い携帯を閉じてポケットにしまう。

電話している所を見ていたら、藤真は私の方を見た。



「公園に皆いるから来いって。」

「え、皆って?」

「Sクラスのやつら。」

「・・・・・。」

「ほーら行くぞー。」


藤真に腕を引かれ、引かれるままについていく。



半年前なら確実に全力で払っていただろう藤真のこの手を振り払わなかったのは。

むしろSクラスの皆がいる場所へ行く事を心のどこかで喜んでいた私は。


少なからずクラスに溶け込んできている証なのかもしれない。



悔いのない夏を


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