SD:8月4日 日直ですって

ボサボサの髪にパジャマ。

朝ご飯であるバターが塗られたトーストをかじっているときだった。


ピンポーンと家のチャイムが鳴った。




真夏の太陽へダッシュ




「まさかパジャマで出てこられるとは思わなかった。」

「だって宅配便かと思った。」


インターホンで確認もせず、トーストをかじりながら判子を持って扉を開ければ、そこにはクラスメイト兼幼なじみの牧紳一がいた。


紳一はため息をついたかと思えば「インターホンを必ず使え」とお説教してくる。

とりあえず間の抜けた返事をしてあがってもらった。



「あと、宅配便だと思うならちゃんと着替えて出ろ。」

「だってもう会うこともないだろう人だよ?」


良いじゃん、パジャマでも。とコーヒーを出してあげながら言えば、また紳一はため息をついた。失礼なやつめ。



「で、なんか用?」

「・・・・やっぱり忘れてたな。」


もうため息も出ないようで何の反応もせずに私の目を見て話を続けた。



「今日はうちのクラスが日直の日だ。」

「ふーん。・・んー?」


つまりは・・学校?



「えええ、嫌だ夏休みに学校行きたくない。」

「馬鹿言ってないで早く着替えて来い。」


口を尖らせて机を軽く叩きながら文句を言えば紳一に一喝される。

この暑い日に学校への道のりを歩いていくなんて考えられない。焼けるし、汗尋常じゃないほど出るし。いい事なんて1つもないじゃない!と紳一に訴えたら見事に流された。



「ちなみに何するの?」

「木とか花に水撒きじゃないのか?あとトイレ掃除。」

「げぇっ!トイレ掃除!絶対イヤ!」

「くじ引きで決まるか、先生の独断でもうすでに役割決まってるだろ。」


一向に着替えない私を見て、紳一は立ち上がって勝手に私の前にあるトーストが乗っていたお皿と牛乳が入っていたコップを流し台に持って行った。

着替えてこないと勝手に部屋に入るとまで言われてしまったので渋々立ち上がり、二階の自分の部屋に行ってクローゼットに入っている夏用の制服を取り出す。


パジャマを投げ捨て、一通り着替え終わると靴下と放り投げてあった鞄を持って紳一の待つ1階へ下りた。



「着替えたー。」

「じゃあ行くぞ。」

「ああちょっと待って、靴下履くから。」

「・・・早くしろ。」



へーい、と軽く返して床に座って靴下をはく。スカートが短くなってるので紳一にパンツが見えない程度に足を伸ばした。



「そういや話戻しちゃうけど、役割分担、先生の独断だったら私確実にトイレ掃除だよね。」

「なんでだ?」


机に軽く手を置いて体重を掛けながら紳一は問いかけてくる。



「んー、だって私周りの奴らのせいで、ちょっと問題児扱いされ始めてるし。期末追試何個かあったからお仕置きみたいな感じで。」

「じゃあ俺は水撒きだな。」

「ははは、笑顔でムカつく言葉吐いてくれるよね、このやろう。」


靴下を履き終えて、床から立ち上がろうとすると、紳一が近づいてきて手を差し伸べてくれた。

名前に「紳」の字が入っているせいなのか、そういう風に育てられたのかよくわからないけど、紳一はたまに紳士のような振る舞いをするからちょっと戸惑う。



「よっ・・と。」

「じゃあ今度こそ行くぞ。走るからな。遅刻する。」

「えぇぇ、朝からダッシュ?!」

「誰のせいだ。」


カバンを持って玄関まで行って紳一はスニーカーを履く。私もローファーを履いて出かける準備は整った。



「俺のペースで走るからな。」

「は?!何言ってんの?!」

「俺のペースで走るからな。」

「リピートしろっていう意味じゃないよ!」

「文句の多い奴だな。」


ほら、と自然に私の左手を掴んで紳一は扉を開ける。

久しぶりに手を繋いで、紳一の大きな手のひらに包まれた私の手からは紳一の熱が伝わってきた。


ここでドキドキするというのが王道だけれど、紳一は空気を全く読まずに私の腕を引いて学校へ向かって本気のダッシュを開始したからそんな気持ちは皆無だった。

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