HH:8月4日 日直ですって

「最初はグー!じゃーん、けーん・・・・、」



「「「「ポォォォッォォォン!」」」」





水撒き大作戦




「へへへー、やったね!水撒き係ぃ!」

「今頃フィンとノブナガはトイレ掃除ね。」

「フランクリンとパクは先生の手伝いって最初から先生が目をつけたみたいだし、マチとシズクは保健係で保健室の掃除って元々決まってたもんね。」



他愛の無い会話をしながら水道の蛇口にホースの先端をはめ込み、抜けないようにきつく紐で縛った。


事の始まりは30分ほど前のこと。

暑い暑い夏休み。日直のため、学校へ来た私たちにクロロ先生はこう言った。



「役割を決めておくのも、くじ引きを作るのも面倒だし時間が無かったのでジャンケンで勝手に役割分担を決めろ。お前らの担当は花壇の水撒きとトイレ掃除だからな。」



そう言われた私たちは、次の瞬間、本気と書いてマジと読むジャンケン一本勝負を行った。

最初はジャンケンをしなくてもお互いの意見を聞いて役割分担をしようという提案もあったけれど、もちろん皆は水撒きを狙っていて、誰1人トイレ掃除に立候補してくれる人はいなかった。

理由としては、外に比べればトイレは薄暗くて気分が滅入るし、こんな30℃を超える気温の中でろくに風も来ないトイレは空気は最悪、気分も最悪になるからだ。




「水出すよー。」

「いいよ。」


そして結局ジャンケンという名の死闘の末、水撒きの役割を見事手に入れたのが私とフェイタンなのである。



「日焼け止め塗ってきたし、ちょっとやそっとの日光じゃ焼けないもんね。」

「安心するね。お前の肌が白かろうが黒かろうが皆興味ないよ。」

「はっはー。ちょっと、黙ってくれる?」


こっちを一切見ずに毒を吐いてくるフェイに、私は笑顔のまま額に青筋を浮かべた。



「そういえば他の皆は?」

「サボりと寝坊ね。」

「ああ、誰がサボりで誰が寝坊か想像がついて怖い。」


水を撒いているフェイに近づきながら苦笑する。

フェイが撒く水をカラカラになった土は素早く水を吸収して色が変わった。



「というかフェイも他の皆もよく来たね。絶対来ないと思ってた。」

「クロロ先生から昨日の夜メールきたね。」

「でもシカトも出来たでしょう?」

「クロロ先生はこの学校で唯一先生と認められる先生ね。シカトする気、起きないよ。」


いつもマスクをしていて顔の表情がよくわからないフェイだから、目つきや声量くらいでしかフェイの気持ちを読み取れないけれど、クロロ先生のことを話す今日のフェイの声はどこか優しくて、目つきも少し柔らかい感じがした。



「クロロ先生のこと大好きなんだねぇー、フェイは。」

「ワタシの事おちょくてるのか。」

「やだなぁー、おちょくってないおちょくってない。」


緩む口元を必死に閉じながら、手を横に振って否定した。

フェイはそれが気に入らなかったのか、眉間にしわを寄せる。



「それ以上ふざけたこと言たらこのホースお前に向けるからな。」

「す、すいませんでした。」


本気だと空気で察知した私は緩んだ口を元に戻した。

そんな私の態度に満足したらしいフェイは私から視線を花壇へ戻して水を撒く。



「わかればいいよ。・・・・よし、終わた。」

「ん、じゃあ水止めるねー。」



元々ホースから弱めに出していた水だったので、フェイは水を撒き終わったホースを自分の近くに持ってきて水を撒くのをやめた。

その行為を見て、終わったという言葉を聞いた私はホースが繋がっている水道まで軽く翔ける。



「(えーっと、蛇口を閉めて・・・。)」


水道の傍まで来た私は、蛇口を右に捻って水を止めた。


・・・・・はずなのに。



「ぶっ!」


あれ、後ろからフェイのありえない声が聞こえた気がするのは気のせいだろうか。あれ、気のせいだよね?・・・・気のせい・・だといいな。

でも右に捻っても捻っても蛇口が閉まらないんだよね。


あ、もしかして私捻る方向間違えたか・・・な?



「なまえ・・・。」

「・・・・・・・・。」


左に蛇口を捻ろうとすると、蛇口を捻ろうとしている私の右肩の上に何かが乗せられた。

ゆっくり横目でそれを確認すればフェイの右手。そしてその右手は何故か濡れている。



「こち向くね。」

「や、やだ・・・。」

「向け。」

「う・・・・・。」


逆らえないフェイの声にゆっくりゆっくり振り返る。


そこにはマスクをはずし、怒りに顔を染めたびしょ濡れのフェイの姿。



「ま、マスク外してるとこ初めて見たなー・・・・。」

「昼飯食てる時は外してるよ。」

「へ、へぇー・・・。」

「なぁ知てるか。Sクラスの暗黙のルール。」


にやり、と笑うフェイの顔に背筋が凍った。

蛇に睨まれた蛙はこんな気持ちなんだろうか。怖すぎて逆にそんなことを冷静に考えてしまう自分がいた。



「あ、暗黙のルール?し、知らない。」

「そうか。じゃあワタシ直々に教えてあげるよ。」


そして一瞬何の曇りも恐怖も持たない綺麗なフェイの笑顔を初めて見た時だった。



「やられたら、やりかえせ。」

「っ!」




悲鳴は水音で掻き消され

(ぎゃあああ!冷たい!制服ビショビショじゃん!)
(やられたことやりかえしただけね!)

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