HH:6月 大雨注意報
朝は有り得ないくらいの気持ちいい晴天だったのに・・・・
「・・・・何故・・土砂降り、」
誰も居ない昇降口で、1人そう呟いた。
今日はクロロ先生に捕まって補習をさせられた。しかも小学生総復習算数編。きっとクロロ先生は私の頭をナメているに違いない。
補習仲間が終わるのを待っていたのだけれど、そいつが補習後に部活がまだあることを思い出して先に帰れといわれた。ちくしょう、待ってなければ弱い雨で帰れたかもしれないのに!
窓からバケツをひっくり返したような雨を見て思わずそんなことを心の中で叫び、なんだこれ、傘ないけど。なんて思いながら昇降口に来たのがさっきのことだ。
にしても止まないな・・・
「(こんな大降りの雨、そう長く続かないよね。)」
滝みたいなこの降り方がずっと続くはずが無い。きっと15分くらい待てば、止むか弱まるか。少なくとも今よりはマシになるはず。
それを信じて、私は1人昇降口で待つことにした。
「(・・・・止まない。)」
むしろ強くなってる気がする。
あれ、さっきのはまだ本気じゃなかったんですか、今から本領発揮ですか。台風か?これ。おいちょっと天気予報仕事しろよ、頑張れよ、夕立のレベルじゃないぞこれ。
昇降口の入り口よりも、だいぶ中に入っているのに地面に当たった雨の飛沫が攻撃してきて冷たくてしょうがない。
あぁダメだ、もう帰れない。そう嘆いている時だった。
「あーあ、ダルいなぁ。この中帰るの。早く帰ればよかったかな。」
後ろから低すぎず高すぎず、それでも男の人らしい声が聞こえた。
振り返るとそこには同じクラスのシャルナーク。つまりはSクラスの奴がいた。
彼はこっちに何にも興味を示さずうな垂れると、ため息をつきながら彼は大きめの黒い傘を開く。
あわてて私はシャルナークにしがみついた。
「シャル!」
「うわっ、もう何みょうじ?」
凄く面倒くさそうな顔をして私を見るシャルナーク。
面倒くさがれようが何だろうがここでコイツを失うわけにはいかない。
「い、入れてくれませんか・・・・!」
「お断り。」
「(こいつ何の躊躇もなしに・・!)お願い!駅まで!」
「えー?」
「えー?じゃなくて、え・き!」
「走れば5分で着くよ。」
「(笑顔で言いやがった・・!)」
例え5分でもこの大降りの雨の中走ってみろ、ずぶ濡れどころの騒ぎじゃない。
注目の的になる上にきっと駅員さんに「あの、電車乗らないでもらえませんか」とか言われそう。それは避けたい、どうしても避けたい。
というか普段あまりシャルと話さないからこそ、勇気を振り絞ってお願いしたのに黒い笑顔で一掃とは何事だ。
「お願いだよ、寒い、帰りたい、風邪ひく。」
「一回うなされるほど風邪ひいたら、その何本かネジの外れた阿呆な脳みそも少しは良くなるかもよ?」
意地悪な顔して笑うシャル。
シャルは頭がいいから言い合いで勝てる相手じゃないのはわかってるけど、悔しい。
きー!とシャルを睨んだ後、この後どうしてやろうかと、視線を下に向け、下唇を噛んで、ぶら下げている両の手で拳を作った。
「・・・・まったく、しょうがないなぁ。ほら、行くよ。」
「・・・へ?」
パッと顔を上げると眉を下げて口元を上げているシャル。広げた傘に私が入るように限界まで近づいてきた。
「い、入れてくれるの?」
「だって入りたいんでしょ?」
ほら行くよ、と歩き始めたシャルに慌てて付いていく。
出遅れはしたけど、歩いている時は歩調を合わせてくれていることに気づいて思わず顔がにやけてしまった。
近づきがたかった顔良し、成績良し、運動神経良しのSクラスのパーフェクトスマートボーイ。
意地悪だけど、実は優しい所があると発見した豪雨の日だった。
大雨注意報
「俺明日日直なんだ。面倒だからなまえやってね。」 「・・・・は?!・・ん?てか今名前で呼んだ?」 「入れてあげたんだから当たり前でしょ?それに俺最初からなまえって呼んでたよ。」 「・・・そうだっけ。」 「(やっぱ馬鹿・・・)」
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