あけましておめでとうございます。

受験まであと少し。今日は藤真先生と初詣兼、合格祈願をしに来ました。



「うわ、吉かよ微妙ー。」

「うわぁ小吉・・・・・。」

「なまえ、違うんだよ。こういうのは大吉とか中吉とか小吉とかじゃねぇんだよ。中身。大事なのは内容。」

「今さっき吉微妙って言ったじゃないですか。」

「さっきはさっき。今は今。」


過去は振り返らないの、と藤真先生は自分のおみくじをぐしゃりと握りつぶした。おいおいいいのか藤真先生罰当たるぞ・・!と額から汗を流した気分になる。

その上藤真先生は気に入らなければ見なかったことにしてもう1度引けと言い出した。なんだそれ、いいの?許されるの?いやいやダメでしょう!と反論すれば、藤真先生は人の邪魔にならないように移動をしながら私を見た。



「馬鹿野郎。要はそれを信じるか否かだろ。信じたくない内容だったら捨てろ。そんな紙切れ1枚に今年1年365日の運勢をダメにさせるな。」

「・・・・藤真先生のその神様をも完全否定するようなお説教にもうこのおみくじの結果なんてどうでもよくなりました。」


ふふ、と笑うと藤真先生も私の気分が上がったのを確認できて安心できたのか笑ってくれる。

でも本当に罰が当たったら嫌なので、おみくじは捨てずにちゃんと括り付けておくことにした。境内にある木にみんなが括り付けているのを見ながら私たちもそこまでいく。

近場のすいているところに括り付けようと手を伸ばしたら、私の手からするりとおみくじが抜けた。



「へ?」

「へ?じゃねーよ。何そんな低くて暗い所に括り付けようとしてんだよ。」

「だってここなら届くし・・・。」

「だめ。もっと高くて明るいところにしろ。」


俺が括り付けてやる、とおみくじを取った犯人の藤真先生は私の背じゃ届かないような高い場所へ長い腕を伸ばしてギュッとしっかりおみくじを結び付けてくれる。その横に藤真先生のおみくじも括り付けた。

そしてそれを見て藤真先生は「完璧」と満足そうにその2つのおみくじを眺める。うん、これなら私のどうしようもない内容のおみくじも浄化されそうだ。



「どうせなら絵馬書いていくか?」

「絵馬?あ、私書いたことないんで書いてみたいです。」


そう答えれば「よし、」と藤真先生は巫女さんのところまで行って絵馬を買ってきてくれた。お金を払おうとしたら、何言ってんだ俺が買った方が絶対ご利益ある、と言ってお金を受け取ってくれなかった。

きっと藤真先生が私に買ってくれるっていう理由だけだろうけど、それはひどいぞ藤真先生。

それでも藤真先生が買った方が確かにご利益がありそうだったので何も言わずにただ「ありがとうございます」といって受けとった。

さて、何を書こうか、と藤真先生がついでに借りてきてくれた油性ペンのキャップを取った。



「絵馬と言えば、昔高野から聞いた話なんだけど。」

「高野先生?」


はて?と首をかしげると、そうそうと藤真先生は腕を組む。


「俺はバスケの推薦で翔陽決めてたから受験とかどうでもよかったんだけど、あいつは一般試験で翔陽に入ってきたわけ。」

「へぇー・・・。」

「それで翔陽受験する前にお参りに来て絵馬書いたらしいんだけどさ。絶対翔陽合格!のゼッタイのタイ漢字を対じゃなくて体にしたらしいぜ。」

「ちょっ・・!」

「それ聞いたとき、絶体絶命のタイじゃねぇかよ!って俺思わずツッコミ入れたわ。」


爆笑してしまった。藤真先生の前で初めて爆笑してしまった。

高野先生何してんの。ていうか藤真先生もどういうツッコミしてるの。絶対合格って話なのになんでそれを絶体絶命に持っていくの。真逆じゃない、ひどすぎる。



「ま、それを家に帰ってから気づいたらしくて、高野も結構ポジティブだからな。もう試験に絶対って漢字が出てきても間違えないっていう方向にとらえたらしい。出ねぇよ高校受験で絶対を漢字で書きなさいなんて問題。」

「ちょ、やめて・・・!」


お腹よじれる、と私は少しむせながら藤真先生の腕を叩いた。

先生たちの学生時代の話を聞いたことは何度もあったけれど、こんな間抜けな話を聞いたのは初めてで笑いすぎて涙が出た。

藤真先生たちは今は「先生」だけれど、数年前は私と同じ翔陽の生徒だったんだな、って実感するとなんだか少し安心する。笑って出た涙を人差し指で拭うと、藤真先生もフフ、と思い出し笑いをしたようだ。


「まぁでも、結局ちゃんと翔陽受かってるんだから気持ちってすごいよな。」


そりゃあ高野だって勉強したんだろうけどさ、なんだかその話を聞くと奇跡に聞こえるんだよ、と藤真先生はもうすでに他の参拝客によってかけられている絵馬を眺める。

もしかしたら高野先生もここで絵馬を書いたのかもしれないし、ほかで書いたのかもしれないし、わからないけれどここにはたくさんの人の願いが込められ、飾られているのだ。

もしもここに高野先生が昔、その絵馬を偶然ここに書きに来ていたら面白いですよね、と藤真先生に言えば、うーん、と藤真先生は腕を組んで口を開いた。


「俺の勝手な考えだけどな。俺は偶然なんて信じない。全部が全部、必然だって思う。もしここに高野が昔来ていたなら、それは偶然じゃなくて必然だ。・・・・これじゃ言ってる意味わからないだろうから言い方を変えるけど、どんなに努力して頑張って結果が出なかったとしても、それは必然だったのかもしれない、って受け止めたい派なんだよ俺は。」


そして藤真先生は続けて言った。

試合に例えれば、勝つ人がいれば負ける人もいる。それは必然なんだと。

もし負けたら悔しい。バスケで負けた時はどうしようもなく悔しかった。

でもそれをきちんと受け止めて次に進めば、もっとより良い場所を眺めることができる気がする。もっと良い場所を眺めるために、越えていくために負けたことが必然だったんだと、受け止められれば、と藤真先生は私を見た。



「だから俺は、高3の夏のあの日、お前に出会えたことは必然だったと思ってる。負けて、落ち込んで、先が見えなくて、悩み悩んでた時に、お前は俺に新しい道を教えてくれた。それは偶然の出会いじゃなくて、必然なんだって信じたい。」


藤真先生は、ことあるたびに私と出会った昔の話をして、ありがとう、と言ってくれるけれど、私はそんな大それたことは藤真先生にしてあげてない。

そう何度も言っているのに、藤真先生は私と出会えたことは必然だと、言ってくれる。それが嬉しくて、思わずうぬぼれてしまいそうだ。そう言えば藤真先生はいいぞ別にうぬぼれても、と返してくれそうだけれど、私の方が今まで藤真先生に何度も助けてもらったから、そんなこと、できない。

だからただ一言「ありがとうございます」とだけ返せば、藤真先生は満足そうに笑ってくれるのだ。



「もちろん俺はお前が合格するって信じてる。それだけの努力をしてきたから。でももし、お前が失敗してしまったとしてもそれは必然なんだって、違う道へ進むための必然だった、受け止めてやるっていう気持ちでリラックスできれば、俺は絶対お前は成功すると思う。」


だからお前も、高野を見習って絶対に気持ちで負けるなよ、と藤真先生は私の頭を優しく撫でた。



さぁ、勝負の時だ
(やるだけ、やった。)

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