「やっぱり家でぬくぬくしてればよかったかな。」
「いやもう遅いっしょ、今更だよ。」
ですよねー、と2人で顔を見合わせて笑いながら真暗な空を仰いだ。
新しい年は2人きりで外で迎えてみようか?そう言い出したのは彰だった。
家で2人で過ごして新年を迎えるのもいいけれど、家族が邪魔してきそうだよね、なんて言って彰は私を家まで迎えに来たのだ。
外に出ると言っても初詣に行ったら人が沢山いて落ち着かないし、何処へ行こうかと思案して最終的に辿り着いたのはシンと静まり返った我等が陵南高校。
校内に忍び込む事には成功したけれど、さすがに体育館は鍵がかかってしまっているので、彰が1番好きな場所とも言える体育館裏に来ている。が、超寒い。越野とかいたら「当たり前だろバカか」と突っ込まれるだろうけどそんなのはもうどうでもいいくらいに寒い。
はぁ、と息を指先に吹きかけてもすぐ指先は冷えてしまって凍ったのかと錯覚してしまうほどだ。
「なまえ、ホッカイロいる?」
「いる!」
そんなの持ってんの?素晴らしい!と私はポケットから出したまだ温かくなり始めたばかりのホッカイロを彰から受け取った。
首に赤いチェックのマフラーを巻いた彰は白い息を吐く。体育館裏の5段くらいの段になっている階段のそばに座り込んで足をぶらぶらさせて年が越える瞬間を待った。
「にしてもナメてたな、大晦日の気温。」
「そーだねぇ・・。でも年明けって感じで。」
いいんじゃない?と笑って問い掛けると彰も笑った。
年越しに寒さなんて付き物だし、彰と一緒に年越しできる事がとっても嬉しい。そんなことを言ったら恥ずかしさで消えることが出来てしまいそうなのでお口にチャックをしておくことにする。
でもやっぱり少し甘えたいから少しだけ彰に引っ付いて、気持ちが届くようにだけしてみた。そしてここが彰の凄いところ。なんとなく気持ちが伝わってくれたらしい。
彰は引っ付いた私の頭をよしよしと撫でてくれた。
「なまえなまえ、ミルクティーいる?」
「え、そんなのも持ってんの?」
「もちろん。」
準備にぬかりはありません、と彰はポケットの中からホットのミルクティーのペットボトルを取り出す。
あれ、さっきもホッカイロそのポッケから出してたよね?四次元ポケット?この時代にあったの?と首を傾げれば彰はふふ、と綺麗に笑った。
「新年早々なまえに風邪ひせるわけにはいかないからね。」
色々と体を温める道具とか、方法とか考えてるんだよ、いちおー。
そう言いながら彰は私にミルクティーを渡すと、ミルクティーを持った私の腕と逆の腕を引っ張った。ぽすん、と彰の広い胸に包み込まれる。
「人間カイロ付き。」
「素敵なオプションですね・・!」
「あったかい?」
「あ、あったかい・・・。」
けどたぶん暑くなるこのままじゃ、と緊張と恥ずかしさまみれのひっくり返りそうになる声で訴えた。
何よ人間カイロって。恥ずかしいよあったかいよ。彰の温度が体中を巡って温かい通り越して熱くなる。そして悔しいけれど、胸がありえないほどドキドキと鳴っていて絶対彰にこの音が伝わってるはず。
彰は私がこういう風にドキドキバクバクしてしまって、余裕がなくなってしまうことがわかっていて、それを承知でこういうことをするんだ。
それを証拠に耳を赤くすれば、彰は私の耳が赤く染まっているのに気づいたようでもっとぎゅっと抱きしめて耳のそばに顔を持ってくる。
「寒いよりマシでしょ。」
「耳元で言わないでよ・・・!」
そんな私の反応を面白そうに眺めながら、そう彰が言った瞬間だった。
ゴーン、と除夜の鐘が鳴り始めた。
つい数秒前までと年が違うなんて、やっぱり実感が沸かない。みんなが「年を越したよ」って思うだけで、実際のところ、何も変わっていないんだからしょうがないけれど。
それでも私は今年も彰と仲良く過ごしていければ良いと、みんなと同じように新たな気持ちになって、思うのだ。
「あけましておめでとう。」
「おめでとう。」
耳元で優しい彰の声がしたから、私も顔を彰に向けて特別優しい声で、新年最初の言葉を交わした。
今年もよろしく (おみくじ引きにいこー。) (さんせーい。)
**** ゆるゆるカップル推奨な年にしていきたいです。2014年もどうぞよろしくお願いいたします!
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