(高校3年生設定)


「クリスマスだって。」

「おう。」

「クリスマスだって。」

「おう。」

「おう、じゃなくてさー!」


なんかやろうよつまんないよコラー!と手に持っていたシャーペンを後ろに放り投げ、目の前にあった問題集を乱暴にバン!と閉じた。

来月はセンター試験だ。困ったことに世間の受験生は聖なる夜を犠牲にしてお勉強をしなきゃいけないようだ。

そ、そりゃあ私がもうちょっと頭良くて、もうちょっと容量が良くて、1日のうちの数時間くらい好きなように遊べたらよかったんだけどさ。それができたら苦労しないと思うんだ。

バスケの推薦で進路を決めている楓は、今私の後ろで床に座って、ベッドに寄りかかりながら雑誌を読んでいる。楓は毎日私の邪魔をしないように夜までいて、私が頑張ってるところを応援してから帰るんだ。それは嬉しいけど今日はなんだかクリスマスイヴの夜を楽しみたい。

そして今日はなんか私が勉強してるのを気遣ってなのか、読んでいるのはアメリカのバスケ雑誌だ。イコール、フル英語だ。読めないくせに、とツッコみたいけど私が勉強をしている中、楽しく日本語の雑誌を読む雰囲気になれないのか。とりあえず気遣ってくれてるのは分かるので何も言えない。



「クリスマスっぽいことしたいんだよ。」

「今日はイヴだ。クリスマスじゃねぇ。」

「うっさい!日本人からしたらもう正直どっちでも一緒だわ!」


珍しく楓に正論を言われたので思わず逆切れしてしまった。でもでも、遊びたいし、クリスマスイヴの夜に、せっかく楓と一緒にいるのに何もしないで勉強なんて辛すぎる。

なんて奴なの私、なんて思いながらもくるりと後ろを向いて楓と向き合う。

楓も私が方向転換したことに気づいたのか、パタンと雑誌を閉じた。



「べんきょー。」

「する。するけど、ちょっとクリスマスっぽいことしよう。そしたら満足して頑張れる。」

「んー・・・、」


私の真剣な訴えに楓は右手を頭にやって頭を掻く。そして何か考え終わったのか、私の方を見て口を開いた。



「ケーキ、買うか。」

「・・・!うん!それで?!」

「・・・・それで・・?」


だと・・・?と楓は固まった。

そして一瞬止まったらしい思考回路を再起動させて腕を組んでまた何か考えだした。

意地悪したつもりじゃなかったんだけど、ケーキとその他になにかもう1つだけやりたくて「それで?」と聞いたのは楓を困らせてしまったようだ。

楓はきっと去年とか一昨年のクリスマスを思い出しているんだろう。

一昨年は確か、楓は部活があったからそれを迎えに行って、楓の自転車に2人乗りして、ケーキ屋さんに寄って自分たちの食べたいケーキを1つずつ買って近くの公園で食べたんだっけ。

去年は公園は寒かったということを反省して楓の家に行って2人でケーキを作ったんだ。楓のお母さんは私たちが作ってるのを見ながら面白そうに笑っていた。そりゃそうだよね、よくわかんないタイミングで楓が粉入れたり、逆に私が卵の数わかんなくなったりしてパニックだったもん。

でもある程度の味で、見た目で仕上げられたから楓と2人で食べたんだ。あ、ちゃんとキッチン綺麗にしてそのあと楓のお父さんとお母さんにもケーキおすそ分けしたら喜んでくれたっけ。

良いクリスマス過ごしたなぁ、なんて思い出していると、楓は何か思いついたようだ。

ハッ!と珍しく目をカッ!と開いている。



「なまえ。」

「ん?」

「去年も一昨年も、まだやってないことがある。」

「なになに?!」

「プレゼント交換。」

「・・・・そういえば・・!」


やってなかったね・・!と私も思わずハワワと震えた。

なんでだろう、普通だったら彼氏にプレゼント買うんだーとかうふふあははしながらクリスマスに備えるのに私たち中学から一緒にいるせいかなんか友達要素強くてカップルっぽいことするの忘れてた。

おっとうっかり、と頭に手をやる。



「でも楓。私受験生でバイトしてないからお金ない。」

「俺はしてる。」

「受験生じゃないからね!たまに派遣してるよね!」

「だから今回は俺だけお前にプレゼント買ってやる。」

「おぉ・・・!」


素晴らしい・・!やさしい・・!と声を漏らせば楓はすくっと立ち上がる。



「何食べたい。」

「いちご系!」

「プレゼントは俺のセンス。しかももう遅いから薬局かスーパーで買えるもの。」

「いいよ!なんかその方が面白い!」


任せたありがとう大好き!と私も立ち上がって楓に抱き着けば、よしよしと頭を撫でてくれる。

楓のあったかい温度にさっきまでの私の中に勝手に膨らんでいた受験への殺伐とした気持ちがウソのように晴れた。やっぱり私はもう楓がいないとだめらしい。



「1時間で帰るからもうちょっと勉強してろ。」

「オッケー、英語やってる。」

「おう。俺のバスケ雑誌訳せるくらいにしてくれ。読めねー。」

「無理無理無理・・!」


それは無理よ・・!と震えれば、楓は優しく微笑んで私の頭をくしゃりと撫でてから私の部屋を後にした。

今日は楓のおかげで、もう少しがんばれそうだ。



高校最後のクリスマスイヴ
(ただいま。)
(おかえりー!)

****
楓さんが何を買ってきたかはご想像にお任せします。私の妄想としてはきっとスーパーで売ってるお菓子(なまえちゃんが好きなもの詰め合わせ)と薬局で入浴剤とかだと思います。化粧品とかを選ばないのが流川さんっぽいと思います。

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