「やべぇ・・、俺天才かも。」


土曜日、午後2時半。

もうすぐおやつの時間にもなるという頃、私は藤真先生と約束通り週1回のごはんデートをしていた。勉強のことなんてもうどうでもいいくらい幸せをかみしめている。

そして今日は地元からも学校からも離れたファミレスに来ている。目玉焼きハンバーグがとってもおいしい。

ガキが頼みそうなもんが好きなんだな、という藤真先生もオムライスを食べているから人のことを言えないと思う。くっそう、オムライス似合うな、なんて思っていたらいきなり藤真先生は自画自賛し始めた。

どうしたんだろう、確かに私の話を適度に聞きつつ、なんか書類に目を通しながらオムライスを食べていたから仕事大変そうだなぁとは思って見てたけど。

首をかしげて藤真先生を見たら藤真先生は書類をカバンの中にしまった。



「俺が作ったテスト、最後の問題みんながひっかかるような少し難しいテストにしたらみんな引っかかりやがった。」

「・・・・・・。」

「なんだよその顔。」

「いや・・、別に・・・・。」

「お前らのためを思ってのテストだぞ?」


どうやら目を通していた書類は、高野先生が受け持ってる私のクラスのテストの結果だったらしい。うちの学校は先生が違っても、進み方は基本的に一緒だからテストだけは全クラス共通なのだ。だから高野先生のテストの時もあれば、藤真先生のテストの時もある。今回担当したのは藤真先生だったようだ。

確かにあのテスト、私も最後の方間違えてた気がする・・。まぁ昔の私からしたら死ぬほど進歩したからいいんだけどね!同じクラスの化学が得意な男の子がそれのせいで満点とれなくて悔しがってたけどね!



「でもまぁ本当奇跡みたいな点数だな。」

「へ?」

「お前。一桁台からこれは素晴らしいとしか言えねーわ。」


俺の努力の賜物でもあるんだけどな!本当普通の先生だったら頭抱えるレベルだったからな!と藤真先生はストローでアイスティーを口に含む。そして「ま、お前が頑張ったからだけどな」と付属させて白い歯を見せた。こういう風にスッと褒めてくれるのが本当に上手い。ずるい。

じーっと睨めば、藤真先生は私の心を読んだのか、優しく頭を撫でてくれた。



「は、ずかしいです。」

「はいはい。可愛い可愛い。」


おまえは昔から可愛い可愛い、と付属させた。

あの喧嘩の後から、藤真先生は私のことをすごく甘やかしてくれるようになった。

ううん、前から私のことを甘やかしてくれていたけれど、なんだかスキンシップが増えた気がする。そう伝えれば「そうだな、そうしてるしな」と返された。

それでも私が卒業するまでは何もしないからなと藤真先生は言っていた。ここまで我慢できたんだ、もう少しくらい我慢できると笑っていた。

そしてその発言に、私はふとあることを思い出したのだ。



「そういえば、藤真先生最近『昔から』って表現結構使いますよね。そんなに私のこと知ってました?」


私がお金ぶちまけた話は前聞きましたけど、と言えば藤真先生はその情景を思い出したのか、あれは今思えば傑作だったと笑う。



「知ってたって言うか・・。結局地元が一緒だから1か月に1回くらい昔からおまえのこと見かけてたんだよ。」


おまえは気付かなかったみたいだけどな、と藤真先生はアイスティーを啜る。

確かに気づかなかった、と言えば、藤真先生はストローを咥えながら「んー、」と首をひねる。そして視線だけを上にして何か考えるしぐさを見せた後、口を開いた。



「お前高校受験の時、よく夜にコンビニで中華まん買ってたろ。」

「・・・・・え。」

「あと、小学生の時お前コンビニに週1くらいで小遣い握りしめてアイス買いに来てたよな。」

「・・・・・え?!」


なんで!なんで知ってるの?!と思わず間抜けな声から大きな声へとシフトさせてしまった。そんな私に藤真先生は「シー!」と自分の口元に人差し指を持って行って私をたしなめる。

だってだって、なんでそんなことを知ってるの。なんでなんでという単語しか出てこない。パニックで声を出さずにいたら、藤真先生は後頭部の方へと手を持っていき、えーっと、と困ったように頭を掻いた。



「まずお前が小学生の時、俺が大学生であのコンビニでバイトしてた。」

「・・・・えぇ。」

「お前が嬉しそうにアイスのショーケース10分も見てるの見てたんだぜ。」

「は、恥ずかしい・・!」

「で、中3の受験期はたぶん塾の帰りだろうな。俺も教師成り立てで仕事上手く回せなくて遅く帰った日とかたまにすれ違ってたんだ。」

「うそでしょ・・・。」


全然気づかなかった!と頭を抱えれば、藤真先生はにやにやしながら肘をついて私を見る。

きっとそれだけ他のことに夢中で、俺なんか眼中になかったんだろ、と笑った。

それでもよかった、前にも言ったけどお前は俺の心の恩人だから、俺の進むべき道を気づかせてくれたから、見守れてるだけでよかったんだと続ける。



「それでお前がうちの高校に入ってきたときは本気でびっくりしたんだぜ。」


あの時一生懸命勉強してたのは、翔陽に入るためだったんだな、って思ったら嬉しかった。

俺に会うために学校に入ったわけじゃないのに、どこかでつながっている気がして、昔から何かが引き合わせてるのかと思って。と藤真先生はストローをもってアイスティーをくるくると回す。

そんな昔から私を知っていたなんて、ううん、私の存在を知っていたって言うのは聞いてはいたけどそんなに私のことを見てくれていたなんて。そう思うだけで顔から火が出そう。



「ま、それだけ俺はお前のことが好きってことだ。」

「・・・私もですよ。」


藤真先生ばかり私のことを言ってくれているのがどこか不満で、不公平な気がしたので思わず私も口に出してしまう。

確かに昔から藤真先生が身近にいたことに気づけなかったけれど、高校に入ってから、初めて補習をお願いした時から、私はきっと誰よりも藤真先生のことを見ていた。今はだれよりも藤真先生の近くにいられている気がするし、だれよりも大好きだと思う。



「藤真先生のこと、大好きです。」

「っ、」


私が好きという言葉を出したのが本当に久しぶりだったから藤真先生はびっくりしたらしい。

このタイミングで「好き」ということを予想できてなかったのか、それともうぬぼれていいのかな。私のことが好きだからなのか、目の前にいる、いつもはポーカーフェイスを気取っている藤真先生の顔が、真っ赤だ。



「っー、くっそ。なんか負けた気がする。」


口元に手を当てて私から視線をそらす。

私もきっと藤真先生に負けないくらい顔が真っ赤だろう。



「なまえ、」

「っ、はい?」

「お前、マジで卒業したら覚えとけよ。」

「・・・・。」

「あと3か月なんて早いからな。」


ていうか3か月切ってるしな、と藤真先生は口元から手を外す。

そして平常心に戻れたのか手元にあったアイスティーを一気に飲んでいた。藤真先生からの宣戦布告は、今までに何回も受けているけれどこればっかりはきっといつまでたっても慣れることはないだろう。


藤真先生はカラになったコップを持って立ち上がる。何か新しい飲み物を取りに行くらしい。メロンソーダかな、ご飯食べ終わったし、と藤真先生が持ってきそうなものを勝手に予想していると藤真先生は「あ、」と声をこぼして「言い忘れてた」と私の方に振り向いた。



「なまえ。」

「はい?」

「翔陽に入ってくれてありがとう。」

「っ、」


これは今しか言えないだろタイミング的に、というような藤真先生の優しいまなざしに、私はまた心を鷲頭かみにされたのだ。



気づけなかった昔の話
(最後の最後で持ってかれた・・!)

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ちなみにこれ書いているときのBGMは鈴/懸なん/ちゃら(笑)

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