(大学生同棲中設定)


「楓さーん。」

「・・・・・。」

「掃除手伝え!」


スパーンッ!と近くにあった雑誌を丸めて楓の頭を叩いた。

チラシに混ざってた薄い冊子だからそんなに痛くないと思う。けれど「いてて、」とソファーに寝転んでいた楓は痛む頭を抑えながら起き上がって恨めしそうに私を見た。



「何で年末だからって掃除しねーといけねぇんだ。」

「日本の大晦日は大掃除をして気持ちよく新年を迎えるって決まってるの!」

「よそはよそ。うちはうち。」

「シャラーップ。」


珍しく冗談を言う楓(いや、本人は本音を言ってるだけかもしれないけど)に、はい!とハタキを渡しながらそう言うと、私は雑巾を持って棚の上を拭き始める。

明日は元日とは言え、楓と一緒に実家に帰るつもりだから、それまでに部屋をきれいにしてから出て行きたい。実家から帰ってきて部屋開けた瞬間に埃っぽいとせっかく迎えた新年がうまくいくと思えない。

そんな私の心情をようやく察してくれたのか、楓はため息を1つつくと重い腰を上げて適当にパタパタと掃除をし始めてくれた。



「あ、そういえば年越しそば。上に何乗っける?」

「海老天。」

「オッケー。」


いいね、海老天蕎麦、豪華だ。なんて私が呟けば、楓もそうだな、と返す。

きっと楓はおそばだけじゃお腹が減るだろうから何か付け足してあげようと考える。お蕎麦にはエビのほかに山菜でも乗せようかなとか、キノコをたっぷり入れてみようかなとか色々頭の中を巡らせた。



「そうか。お蕎麦の話してて思い出したけど、買い物にも行かないといけないんだね。」

「・・・・嫌だ。」

「大丈夫、混んでないよ。」


小さく「たぶん」と付け加えておいた。その私の自信の無いたぶんという言葉に楓は少しむすっと黙る。

どうやら楓は私の言いたい「一緒に買い物行こうね」という事を先読みしたようで私が「一緒に行こうね」と言うよりも先に先手を打って拒絶してきたようだ。そんなことさせない。私だけで年末に買い物しに行くのはちょっぴりさびしい。


楓と一緒に買い物行きたいのよ!と主張をすれば、楓はハタキを持っている手を止めて私を見た。



「わかった。でも即買って即帰る。買うものメモれ。」

「え、いいよ。メモんなくたって。」

「お前買うもの悩むと長ぇからダメだ。」


そう言いながら、楓はハタキを床に投げ捨てた。冷蔵庫の横にある棚の上に乗っていたメモ帳とシャーペンを手に取り、こっちに戻ってきておコタに座る。

私も掃除を一時中断して楓の隣に座った。



「書いてくれる?」

「ん。」

「じゃあね。お蕎麦と海老天とネギとしいたけ。あとほかにおいしそうなキノコ。」

「・・・・ん。」

「あとなんかほしい?紅白見る時何か無いと口寂しくない?」


そう問いかけると楓は私の意見に賛同してくれたようで、顎に手をやって考え始めた。



「私アイス食べたいな。コタツにみかんにアイス。素敵!」

「じゃあ俺もアイス。」


メモ用紙にアイス、と書いて楓はシャーペンの芯をしまった。

立ち上がって楓は私と自分の分の上着とマフラーを持ってくる。

私に上着を渡して、自分も素早く着込む。首にぐるりと赤いマフラーを巻くと、楓は私の首にもマフラーを巻いてくれた。

こういうところが彼のそっけない優しさだ。思わずふふ、と笑ってしまう。



「スーパーがババアでいっぱいにならないうちに行くぞ。」

「ちょ、楓酷い。」

「酷くねぇ。」


私の手を引いて楓は玄関に進む。

楓の指先から彼の心地いい体温が伝わってきて、とても幸せな気分になった。今年も1年楓と仲良くやれたように、きっと来年も楓と仲良く過ごせるだろう。




よいお年を!
(・・・・もうババアで溢れ返ってる。)
(あぁ、楓。もう掃除やめよう。買い物したらきっと体力切れだ。)

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