「なまえ、メシ食うぞ。」
「あ、ごめんー。今日は一緒に食べられへんわ。」
「は?なんかあるんか?」
「今日は実理ちゃんとご飯食べる。」
なまえに昼ご飯を一緒に食べようと声をかければ、そう返された。
みのり?そんなやつこのクラスにおったか?そんなことを考えながら俺は今朝駅前のコンビニで買ってきたコンビニ袋を片手に持ちながら首をかしげてしまう。
「なんや、違うクラスの奴か?」
「え、何言ってんねん。実理ちゃん言うたら岸本さんちの実理ちゃんに決まっとるやろ。」
ややわぁ南、ボケた?
なんて眉を下げて笑うもんだから、ちょっと頭キて軽くなまえの頭を叩いた。
なにすんのよ!とキーキー言ってるなまえは無視をする。
岸本なぁ・・・。そんな特に意識してではないが、ぼぅっと思った。
あぁ、そういやあいつ顔に似合わずそんな可愛らしい名前しとったな。にしてもアイツ何様のつもりやねん。なんで俺抜きでなまえと飯食うねん。
…いや、嫉妬とかちゃうけど。そーやないんけど。なんかむかつくわぁ…。
いろんなことを考えたら、イライラ度が増して思わず眉間に皺が寄る。
「俺置いて岸本と昼飯食うんか。」
「嫌やわ、南、嫉妬?」
「……。」
「(やべ、怒った…!)ご、ごめんな、南。冗談!でも今日だけは許して。今日だけは実理ちゃんと2人きりじゃないと。」
「・・・・・。」
「じゃ、そゆことで!」
机の横に下げていた鞄から出した、チェックの布に包まれた弁当を持ってなまえは教室を出て行った。
そういうことって、どういうことやねん!と叫ぼうとしたがやめた。なんたってクラスメイトからの哀れんだ視線が突き刺さる。
俺かてこの状況どうしたらええかわからんっちゅーねん。
・・・・・・・。
「(・・・・おっかけよ。)」
一緒にメシ食う奴おらんしな。あ、俺友達少な。そう思うと一瞬寂しくなったが、ため息だけを残して教室を出た。
岸本は隣の教室だから出てすぐに隣の扉を開ける。
ざわざわと賑わうお昼の教室。けど、一見しても肝心の岸本となまえの姿が見えない。
近くに居た顔見知りにどこへ行ったかと聞けば、2人とも楽しそうな顔をして購買へ向かったという。
「(・・・・なんでやねん。)」
自分を差し置いて楽しそうにする岸本となまえ。
なんか、むかつく。想像するだけでイライラした。
階段を下りて1階の廊下を進み、購買へと急ぐ。
購買行った、って、なまえ弁当持ってたくせになんで岸本に付き合って購買ついてくかも理解できん。2人で動くな待っとけ。
そもそもなんで友達少ないで有名な俺を置いて…。
階段を降りていきながら、脳内回路は止まらない。止まらないし、回れば回るほどイライラする。
「おばちゃん!それ!それキープして!お願い!」
「一週間、購買終了後に掃除したるから頼むわ!」
イライラとともに購買に近づけば、聞き覚えのありすぎる声がした。
間違いなく岸本となまえの必死な声が戦争中の購買に響いている。
「(どこや……。)」
目を凝らして購買に群れている生徒たちの方をぐっと見ると、やっぱりそこに2人の姿があった。
何かを買って、買えた買えた、と息苦しい人混みの中から出てくる2人の顔は汗を軽くかきながらも、とっても楽しそうだった。
イライラする。そう思った。
なんと表現したら良いかわからない心臓をギュッと締め付ける黒い感情が湧き出てくるのだけがわかる。
わかっている、別に浮気とかそーいうんじゃないことくらい。仲がいいから、ただそれだけということくらい。
そんなことをなまえがするわけがないことくらい。
理屈ではわかっているのだ。
「これでオッケーやな!」
「そうやな!買えて良かったー!」
「何が買えて良かったん?」
その状況を眺めていることに我慢できなくなって、近づき低い声で声をかければ2人の方がビクッと震えた。
2人は恐る恐るこっちに見て慌て、なまえに至っては何かを後ろに隠す。
「・・・・何隠してん。」
「べ、べつに・・・。」
なんも隠してない、となまえは目をそらしながらとぼける。
その行動が、余計に俺の怒りに火をつけた。
「岸本と2人で俺に秘密事か。」
「お、落ち着けや南。」
声と表情から俺が怒っているのを感じ取った岸本は顔が真っ青だ。
なまえは相変わらず俺に目を合わせずにどうにかこの場をやり過ごそうと無い頭を必死にフル回転させている。
嘘をつこうとしてるのか。そう思っただけでまたイラついた。
「・・・・もうええ。怒るのも疲れるわ。」
2人に背を向けた。
別になまえが岸本と浮気をしているなんて考えていない。
けれどいつも一緒にいる2人に除け者にされた感じがして、どうしようもなく寂しい気持ちに襲われた。
それにこのまま一緒の空間にいたら、このままだと八つ当たりしてなまえを泣かせてしまいそうで怖かったのだ。
「ま、待ってや南!」
階段のところまで来るとなまえが慌てて追いかけてきた。
南の服を掴んで待ったをかける。
「やっぱ一緒にご飯食べよ!」
「・・・・なんでやねん。岸本と一緒にメシ食えばええやん。」
必死に声をかけてくるなまえを冷たくあしらう。
一緒に食べようと言われたことが嬉しいはずなのにどうしても素直になれない。それでもなまえは「ねぇねぇ!」と執拗に追いかけてくる。
「なんやねん、うるさ・・、」
「ごめんな、南。うち、南がそんな寂しい顔するなんて思わんかった。」
「・・・・別に寂しいなんて言っとらん。」
どくん、と心臓が少しだけ大きく鳴る。普段読まれることのない心の中を透かされて悔しかった。
これじゃただの独占欲の塊だと自己嫌悪しながら、悔しいと思いながら苦虫をつぶしたような顔をしていると、なまえの手が俺の手首を握った。
「ごめんな。明日は南の誕生日やろ?だから南の好きなものいっぱい詰めた素敵ボックスをプレゼントしようと思ってん。」
手首を握っていた手を滑らせてなまえは俺の手を取った。
「南は購買の焼きそばパン好きやんな?」
上目遣いで心配そうに俺の顔を覗き込むなまえ。
なんだそれ、むかつく。ずるい。ふざけんな。そもそも明日の誕生日用に今日が賞味期限みたいな焼きそばパン買うな殺す気か、そんなことを思いながらも顔が赤くなったのを感じて、思わず目を逸らした。
それと同時に、あかん、そらしただけじゃなまえが不安になってまう。瞬時にそう思った俺はどうにか口を開いた。
「・・・好き。」
我ながらなんちゅー恥ずかしい事を。いくらなまえを不安にさせないためとはいえ、女みたいな言い方をしてしまった。
それにしてもなまえの発言1つでこうも変わってしまう自分が情けなくなる。さっきまで確かに心の中にあったはずの怒りや悲しみはもう恥ずかしさと嬉しさとのせいでどこかに消え去っていた。
「・・・・っみなみ!」
でも顔を赤らめながら小さい声で言ったにもかかわらず、なまえは嬉しかったようで。
なまえは持っていた焼きそばパンを岸本に思いきり投げつけて、俺にごめんと叫びながら思いっきり抱きついた。
だいすきだ!
(一階購買にて強盗事件発生、直ちに急行せよ:end)
※強盗=なまえちゃんを連れて行った岸本(笑)←
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