南となまえの所属しているクラスの家庭科の調理実習で事件は起こった。


「・・・・っ、」

「ほら、南!食べて!」

「・・・・・・・・。」



頑張ったよ!となまえの顔に笑顔という名の花が咲く。

それとは対照的に、周りにいるクラスメイトはただただ顔を青くしながら南を哀れんだ目で見つめている。その視線を集めている南自身も顔色は良くない。本当に唯一、南の目の前にいるなまえだけが逆にニコニコと明るい顔だった。



「く、食わなきゃ・・あかんか。」

「え?なんで?お腹すいてない?」

「や、・・・そうや、なくて・・・、」

「じゃあハイ!」


ドーゾ!となまえはとびっきりの笑顔で調理実習で作った物体を差し出した。それを見て南はまた「う、」と一歩後ずさりしてしまう。



「(今日・・チャーハン作ったはず・・・)」


色がグロくて中に入ってるもんが区別できひん、色からしてヤバいと察してくれ、新手の対人兵器作った天才や。

南は恐怖に喉を鳴らした。


具は好きなものを入れていいという課題だった為に食べるのが余計に怖い。

いろいろ脳みそで考えてもしょうがない、と南は意を決して口を開いた。



「なぁ、なまえ。」

「なに?」

「具は何入れてん?」

「えっと、ハム、卵、ネギ、」

「(あ、なんや、案外普通。見た目コゲただけ・・・・)」

「パイナップル、」

「ちょお待て。」

「なに?」


チャーハンの具材には聞きなれない単語だったため、南は思わずなまえの発言を止めた。そのストップになまえは首をかしげる、

そうか、この微妙に液体が染み出ている、これまたコゲてて微妙に透明な物体はパイナップルか、と南は自己解決した。と同時に「首かしげてる場合ちゃうねん、何入れてくれてんねん」とツッコミを入れたくなる衝動を一生懸命抑えて口を開く。



「パイナップル・・・?」

「うん。パイナップル好き。」

「好きなもん入れりゃ美味くなるってモンちゃうぞ料理は。」

「え?!」

「え?!やないねん、違うわ。」


阿呆、と南はため息をついた。

それを聞いてなまえは悲しそうな顔をする。それを見て南は少し焦った。


いつものなまえはどんな事があっても常に笑っているから、そんな顔を見るのはほとんど無いのだ。ゆえに対処法も、正直わからない。

女の涙に男は弱いというけれど、南はそれ以前の問題でなまえの悲しそうな表情にも弱かった。




「じゃあ、食べられんね。自分で食べる。」


なまえは悲しそうに声のトーンを落とし、焦っていた南の持っているチャーハンに手を伸ばした。

けれどなまえの手はチャーハンに届かない。南はそのチャーハンを右手に持って、それをなまえが届かないように高く上に持ち上げた。



「南、良いねん。返し・・・、」

「誰も食べんとは言うてへんやろ。」


そう言ってなまえが転ばない程度の軽い力でポン、と押し返した。

なまえは目を見開いて南を見る。



南はそばにあったスプーンを持って、焦げたチャーハンをすくって口へ運び始めた。

一気に周りがざわついて南の食べている様子を見る。


心配そうに見ているなまえの横で、南は目を瞑ってモグモグとしっかり噛み続けた。




「・・・・まずい?・・よね?」


ごめんなさい、となまえはしゅんと俯く。


南はそんななまえに一瞬だけ視線を移し、すぐ視線を落としてひたすらチャーハンをかむ。もぐもぐもぐもぐ、ごっくん。噛んでいたチャーハンを飲み込んだ。



「・・・意外にパイナップル合うで。」

「え、ホント?!」

「案外悪くない。」



まぁ、頑張ったんやないの?パイナップルサラダとか、酢豚とかにもパイナップル入ってたりするしな、それ考えたらチャーハンにパイナップル入ってたって別にな、と南はなまえから目を逸らしてまたチャーハンを口へと運んだ。


さっきまで悲しそうな顔をしていたなまえからは、そんな表情が一切なくなり、いつもの笑顔が咲く。



「っ南!大っ好きや!」

「どわっ!」


これから毎日嫁入り修行するー!と少し目を潤ませながら思いっきりなまえは南に抱きついた。



やさしいうそ
(全部食ったらしいやん、お人よし。腹大丈夫か?)
(だまっとけ岸本・・)

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