きりーつ、きょうつけー、れー、ちゃくせーき。
そんな間延びした朝の号令が豊玉高校のそれぞれの教室から聞こえてくる。日差しが暖かくて、登校したばかりだというのに思わず欠伸が出ててしまう。
その中のある1つの教室で、そんな生徒を眺めながら、南のクラスの担任は左手で出席簿を持って、右手にペンを持った。
「いない奴居るかー。」
「先生、いい加減その出席のとり方やめません?」
「だって楽やし。で、居るかー。」
「阿呆のなまえが来てません。」
「あぁまたアイツかー。」
南の面倒くさそうな返事に担任は右のペンを動かす。
欠席扱いやな、とみょうじなまえのところに欠席という印として、斜線が引かれた。
あーあ、これで何回連続遅刻やねん。新記録更新してんとちゃうか?とひっそり心の中で南は深いため息をつく。
あんなに朝モーニングコールをしてやったというのに、と南は机の下の自分の携帯を見て困ったように眉を下げた。なまえは携帯の音をサイレントにしているのか、出ることがなかったのだ。
「南、お前の嫁ちゃんと教育せなあかんで。」
「嫁ちゃいます。」
「おぉ、嫁候補か。どっちでもええからとりあえず刻限通りに学校に来いときつくお説教しとけ。」
俺もするけどな、学校着たらすぐに職員室に来いって伝えといてくれな、と担任は違うクラスでの授業のためにひらひらと手を振って教室から出て行くのを見て、南は盛大にため息をついた。
そしてつまらない授業を経て、お昼に時間は移る。
「・・・・何やってん。」
「・・・・馬にはねられて遅刻しました。」
「帰れ。」
「うそうそ!寝坊してん!」
あははと首をかしげながら頭の後ろに右手をやって笑うなまえに、南は朝に引き続き盛大なため息をついた。
低血圧のなまえは朝が弱い上に、両親が朝早くから仕事に出てしまうため、自力で朝起きなくてはならない時間に起きる事がどうしてもできないことを南は知っている。
だからといってこのまま毎日毎日遅刻させるわけにもいかない。南が頭の中でどうしたもんかと思案していると、「あ、そうだ」となまえは人差し指を立てた。
「南がモーニングコールしてくれたら起きれるやもしれん。」
「阿呆。毎日5回鳴らしてやってんのに起きん奴は誰だかわかっとんのか。」
「・・・・携帯の音が小さいねん。」
「最大にしとけ。」
うん、となまえは頷いて南の席の前の席に座って鞄からコンビニ袋を引っ張り出す。
中からパックのジュースとサンドイッチを取り出すと、サンドイッチの袋をはがし、中身を取り出して口に運んだ。
サンドイッチ買ってくる時間あったら早く学校来んかい、と南はなまえの頭を軽く頭をはたく。
それでもなまえは「そうやね。」というだけで、にこにこと美味しそうにサンドイッチにかぶりついた。それを見て南もあきらめたのか、自分もお弁当の中身を口に運ぶ。
もぐもぐと自分のお弁当を食べながら視線だけなまえを見ると、ブランチ状態のサンドイッチを頬張るなまえはとても幸せそうだ。
そんな単純ななまえを見て、南は心の中で笑ってしまう。なまえの行動に、南はなまえに知られることなく癒されていた。
「お前の彼氏っちゅーポジションに居るせいで毎時間教師どもに絡まれんねん。」
そんなことを思っているのがバレないように、心の中とは裏腹に南はなまえに文句をつける。
「あ、何や絡まれるのが嬉しいんなら嬉しいって言えばええのに。」
「・・・・。」
「嘘です、すんません。調子にのりました。」
なまえを目で殺せばなまえは大慌てで南に土下座した。
またため息をついて南は顔を上げたなまえの頬に付いたパンくずをとってやる。
その仕草の意図に気づいたなまえは嬉しそうに笑むと、南もまた困ったように少しだけ笑った。
「やさしー南。好きやで。」
「・・・黙っとけ。」
とりあえず職員室行ってこいと南が言えば、「嫌や」となまえは笑った。
不器用さんとマイペースちゃん (嫌ちゃうねん、行け言うてんねん。) (自分から怒られに行けと?) (・・・。) (わかった、ごめん、行く。サンドイッチ食べたら行く。) (よし。)
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