誰よりも努力家で、誰よりも強引で、誰よりも策士。


それが、私の恋人です。




「まいった。しくじったよ、宗ちゃん。」

「どうしたの。」

「今何本目かわからなくなった。」

「覚悟できてる?」

「できてないっす・・・!」



勘弁してください・・・・!と放課後の体育館の冷たい床の上で土下座した。


今何をしてたかって言うと、宗ちゃんが部活後に行っている500本シュートの回数を数えてたんです。

今日は先に帰ろうと思ってたんだけどテストの点数で宗ちゃんに負けちゃってね。罰ゲームとして「自主練手伝って」って言われちゃったんですよ。


結果的にまともな命令だし、一緒にいられるから負けなきゃよかった、なんて事は思わないけど、疑問は浮かぶ。

なぜだか私はジャンルを問わず、宗ちゃんに勝負事で勝つことができないのだ。


第一、私と宗ちゃんが付き合うことになったのも、休み時間にやっていたトランプ(神経衰弱)の勝負で私が負けたのがきっかけだった。

その時に賭けてたものが「相手の言う事を何でも1つ聞く」で、やばいどうしよう神君相手に「何でも」なんて私クレイジーだよ!と絶望に陥っていたら「付き合ってよ」と言われて「はい?」って返したら「言う事聞くんだよね?」と笑顔で返されて思わず「はい」って答えちゃったんだよ馬鹿だよね私。

・・・・話を元に戻すけど、私はあの罰ゲームの日以来どんなに頑張っても宗ちゃんに勝てないんですが、これはどういうことでしょうか。



「あれじゃない?格の差。」

「笑顔で何言ってんですか。というか私声出してた?」

「顔に書いてあった。」



バスケットボールを肩に乗っけながら宗ちゃんは言った。

そして笑顔を増して私に近づいてくる。



「で、話戻すけど俺が何本シュート打ったかわかんなくなったって?」

「(話逸らしきれなかった‥!)ウン。」

「じゃあ俺また500本やり直しってこと?」

「いや多分400本くらい打ってたはずだから、あと100本くらいで良いんじゃ・・・・!」


ないでしょうか・・!と言おうとしたら、宗ちゃんの長くて綺麗な人差し指で私の唇を優しく押さえられた。



「くらい、じゃダメ。」


500本って言ったらきっちり500本、と宗ちゃんはどんどん顔を近づけてくる。

終いには壁に追いやられてしまった。



「そ、宗ちゃん少しくらい自分で数えなかったの・・?!」

「あ、自分が悪いのにそういうこと言うんだ。」

「スイマセン・・・!」



何を言っても勝てる気がしない。自分の弱さに絶望した。

今だって宗ちゃんの笑顔に勝てず、いつの間にか謝ってしまっていた。・・・・本能かな。


そんないろんな絶望に浸っている私をおいて、宗ちゃんは私の身長に合わせて屈んで私の顔を覗き込む。



「ねぇなまえ。」

「ん・・?」

「なまえの顔に書いてある疑問に1つずつ答えるけど、いつも俺がなまえに勝つのは格の差じゃなくてなまえを自分の好きなように自分のそばに置いておきたいからそれなりに頑張ってる。」

「っ・・・・・!」

「あと今回はシュート数えてもらっただけだけど、俺が数えてなかったのはなまえを信じてるからだからね。」


だからこれからも何かしら勝負には勝つし、なまえを信頼して何かしら頼むから、と私の頭を撫でた。



「(何なんだこの人・・・!)」



信じてる、って言うなんてずるい。


ドキドキがうるさい。

静かな体育館に私の心音が響いてしまってるんじゃないかと思うくらい。



宗ちゃんは私が顔を真っ赤にしてるのをみて満足そうに笑う。

そして私に背を向けてゴール前に行くと、宗ちゃんは500本シュートを再び開始した。




君には勝てないよ
(何もかもね)


****
いや実は神君自分で回数数えてたんですけどね。やり直しすればその分練習できる上に、なまえちゃんと一緒に居られる時間増えるじゃないですか。一石二鳥ですね。
あと私神君の話書いてる時、大抵主人公が絶望してるんだけどどういうこと。

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