今日、海南大付属高校は文化祭を迎えていた。
うちのクラスは宗ちゃんがいるということで、喫茶店をやっている。
宗ちゃんは後輩にも先輩にも人気があるからお客さんがいっぱい来てくれるので、それを狙って宗ちゃん中心の喫茶店を開くことになったのだ。
そう、それで今私はエプロンをつけて接客をしている・・はずなのに。
「どうしてこうなったのかな。」
「さ、さぁ・・・?」
ウェイターの格好をした宗ちゃんに壁際まで追い込まれている私。
あれ、どうしていつの間にこんな状態に?おかしいな、さっきまで楽しく接客をしていたはず‥なのに‥‥。
「俺が部活で公欠の時に決まったらしいね、この出し物。」
「・・そうみたいだね。」
「俺、こういう面倒くさいの嫌いなんだけどな。知ってるよね?」
「はい、もうバッチリと‥‥!」
存じ上げております!と拳を思いっきり握って答えた。
笑顔で迫られるほど怖いものってないと思う。宗ちゃんの微笑みなら尚更だ。
壁に追い詰められている上に顔の両脇には逃げられないようにと筋肉がついた男らしい宗ちゃんの腕がある。
絶体絶命ってこういう時を言うんだと思うの。
「……もしかしてものすごく怒ってたり……する?」
「俺が?怒る?やだなぁ、なまえ。俺が怒るわけないじゃん。」
「(やっべぇ・・!マジギレだあぁぁ・・・・!)」
本気だああああ、と心の中で滝のような涙が流れた。でもそれと同時に私の中で小さく目を出していた罪悪感が一気に成長して花を開いてしまった。
たぶん、宗ちゃんは深く狭くなタイプで必要以上に人と関わりたくないんだと思う。
宗ちゃん特有の優しさ(意地悪だけど)を自分が必要だと思う人だけに、たくさん伝えられるように。
それを私は知ってるはずなのに。
「ごめんなさい、わかってたんだけど宗ちゃんのウェイター姿見てみたくて。しかも心の隅でちょっと面白そうだな、なんて思ってた自分がいて・・・・。」
反対しなかった上にむしろ賛成しちゃってごめんね、と宗ちゃんをみると、宗ちゃんは両手を壁から離して頭を軽く掻きながらため息をついた。
「まぁ、謝ってくれたなまえをこれ以上責めようとは思わないよ。決まっちゃった以上はやる。」
こんな格好した瞬間に腹はくくったよ、と宗ちゃんは苦笑する。
・・おかしい。いつもなら私が泣きそうになるまで苛め通すのに。
まぁ最後は優しくしてくれるけど・・・・。違う、何かが違う。
そうは思いつつもやっぱり優しくしてくれることはうれしいので心のどこかでホッとした。
「あ、ありがとう、宗ちゃ・・。」
「ただし。」
「?」
いつもと同じ微笑みのはずなのに。
何故かその時の笑顔に悪寒が走ったのは、長年付き合っているからだろうか。
あぁ、やっぱりさっき簡単に許してくれたのは何か裏があったんだ。その笑顔を見た瞬間、何か凄く、嫌な予感がしたんだ。
「今度うちでメイド服着てね。」
「・・・・そんな馬鹿な!」
「言っとくけどマジだから。」
宗ちゃんは楽しそうに笑って、お客さんのいる教室に戻っていった。
今度から宗ちゃんが嫌がることは絶対にしないと心に誓おう。
それはいわゆる等価交換
(ていうかなんでそんなにお客さん引き込みたいの?) (客引きNo.1クラスには学食半額券がクラスの人数分もらえるから!) (・・へぇ。)
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