「さっむ!」


体育祭中、突然の雨に打たれた。

夕方から雨が降るのは知っていたけれど、もう少し後だと思っていた。だってさっきまでちゃんと晴れていたから。というかあと少しですべての競技が終わるからと思って無理矢理続けていた部分もあったのは事実だ。

みんなも先生もそう思っていたようで、雨が降るまで頑張っていた。それが甘かった。なんだこのどしゃ降りは。分厚いトレーナーを着ているおかげでまだ下に着ている半袖に浸水してきてないけれど、分厚いせいでトレーナーが水を吸って重たい。

そんなことを頭の隅で思いながら、グラウンドにいた私もみんなも全力でダッシュして雨宿りしたけれど、本当にすごい雨だったからみんなずぶ濡れだ。私もずぶ濡れだ。

そしてこれまた最悪なことに、これからすぐ役職の仕事に行かないといけない。役職というのは閉会式の準備係だ。急きょ体育館でやるらしい。くっそ、マジついてないな!と心の中で舌打ちしながら、急いで体育館に向かうと同じ役職の仙道がいた。



「おつかれー、なまえ。」


体育館に入ると、すでに仙道が到着していた。

仙道とは高校に入ってから同じクラスで仲良くなった。仙道も私のことを名前で呼んでくれるくらいの仲だ。今年のクラス替えでクラスが離れてしまったけれど、それでも廊下で会うと少し立ち止まって話をしたりする。

越野が私と同じクラスだからたまにうちのクラスに遊びに来て仙道と話したりすることもあった。



「お疲れー・・・。・・・なんで仙道濡れてないの?」

「え?濡れたよ?」


私はこんなにずぶ濡れなのに、仙道は一切濡れていない。髪が少し湿ってるくらいだ。

おかしいよ!なんで!と仙道に問うと、仙道は「あぁ、」と口を開いた。



「ここに来る前にダッシュで部室行って体拭いて着替えて髪拭いて軽く整えてきたんだ。」


足が速いってこういう時便利だよね、と仙道はニコニコしている。

くっそう、いいないいな、あったかそう。私は雨くさいのに仙道からはとってもいい匂いがする。

とりあえず上に着ているトレーナーが雨を吸って冷えてきてしまって寒いので、意を決して脱ぐことにした。奇跡的に中の半そでが濡れていない。けど寒い。

さっき教室に避難した友達に私の上着を持ってきてとメールしたからそれまで我慢、我慢だよ私!と必死に鼓舞する。



「半袖も寒い!でもまだマシ!」

「まあ濡れてるのを着てるよりはいいよね。」

「だよね!よっしゃ仕事しよ!」


えーっと、各クラスがすぐ並べるようにカラーテープを床に目印で張り付けてー、と私は自分自身に確認するように口に出しながら先生が置いておいてくれた道具箱をガサゴソと探る。

ハサミを持って、カラーテープを持って、資料に書いてある位置にしゃがみ込んでカラーテープを切っては貼る。

けれど、けれど寒い。寒すぎる。おんなじことを何度も言って申し訳ないけど本当に寒いんだ。この半袖濡れてないとはいえ、秋も深まってもうすぐ冬ですね!っていうこの季節に半袖はマジで自殺行為だと思うんだ!


テープを持っている方の手で、反対の私の腕を擦って少しでも自分を温める。先生、体育館に暖房をつけよう。毎回集会の時も寒いなーって思ってたけど、今は半そでだからその思いが余計に強い。暖房、暖房をつけよう。

そんなことを思いながら気合いでテープを切っていると、仙道が私のそばまで歩んでくる。



「なまえ、これ着ていいよ。」


そういうと仙道は自分が着ていたジャージの上着を脱ぐ。そして私にふわりと投げた。



「え、良いよ悪いよ!仙道が寒くなっちゃうじゃん!」

「いいよ、俺もう濡れてないし、寒くないよ。」


だから遠慮せずに着な、と仙道はわたしに言う。

みんなのあこがれの仙道のジャージを着るなんて本当に申し訳ないと思ったけれど、申し訳無さより寒さの方が勝ってしまった。

ありがとうございます、と言いながら急いで仙道のジャージを羽織る。


「あったかーい!」

「よかったね。」


何よりだよ、と仙道はにっこりと笑う。その笑顔にドキッとしてしまった。

自分の手のひらを見るとやっぱり仙道のジャージは大きくて腕の部分が余ってしまう。そして自分が着ているジャージからさっきいい匂いだと思った香りがする。

仙道の笑顔、仙道の優しさ、仙道のジャージ、仙道の香りが全部ミックスされてドキドキが止まらない。


でも、そんなこと、思っちゃいけない、思ってはならない。だって彼には、



「本当に借りちゃっていいの仙道。彼女、怒らない?」


仙道には、可愛い彼女がいるのだから。



「えー、大丈夫でしょ。ここ俺となまえとあとほかのクラスの人2人くらいしかいないし。ていうか女の子寒がってるのに上着貸さないで見てるなんてできないし。」


平気平気、と仙道は笑う。


優しくしないでほしい。

去年仙道と一緒のクラスで、仲良くなって、クラス替えで別になってしまったとき、とってもショックだった。

どうしてショックなんだろう、って考えた。仲が良かったから?もう仙道になかなか会えないから?

全部合ってるけど、きっと私は、仙道に恋をしているからだ。そう自覚したときにはもう時すでに遅くて、仙道には彼女ができてしまっていた。

すぐ付き合って別れての繰り返しの彼だけど、もう今回の彼女とは長く続いている。

ことあるごとに一緒にいるところを見ているし、きっとそれだけ仙道が今の彼女を好きでいるんだと見るたびに再確認してしまう。


もう、私が入り込む余地なんて、残されていないのだ。



「そういえば越野とこの前話してたんだけど、今度遊びに行こうよ。ボーリング。」


久々にやりたいよなって話しててさ、どうせならなまえも誘おうって思って、と仙道は私からテープを取って私の代わりに床に貼る作業をする。

お似合いの彼女がいるのに、そんな風に勝手に錯覚をさせるようなことは言わないでほしい反面、とてもうれしい。でも、苦しい。こんな感情、雨に打たれて流されればいいのに、と心の中で感情を押し殺す。

そんな私に「ね?」と笑んでくる仙道に、私は「うん」と返すしかできなかった。



「じゃあ今度部活午前練習だけの日に行こうな。」

「オッケー。」

「あ、そのまま着てていいから。」


大きくて動きづらいだろうけど、みんなが閉会式に来るときに何か上着持ってきてもらうまで我慢しててね、と仙道は笑う。



「・・・ありがと。」


大好き、って続けたかったけれど、その言葉を胸にしまいこむ。

これでいい。私は仙道と仲良くできていればそれでいい。

今の彼女と、一緒にいることで彼が幸せになれるなら。私は女の子のとっても仲がいい人というポジションにいられるのなら。


もう、それで十分なのだ。



プラトニック・ラブ
(大好きでした。)

*****
プラトニックラブって精神的な〜って話らしいです。肉体につながりを持たない感じ。
でも私はこういうのもプラトニックではないかと思いました。妄想チックな恋。勝手な恋。あ、ただの片思いの話ってだけかもしれないんですけどね。
相手も思わせぶりなそぶりをするとお互いが実は両思いだと錯覚する時ってあるじゃないですか。優しくすんなよって思うじゃないですか。そんな感じです。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -