「今日はハロウィーンでぇーっす!」
「おう、テンション高ぇな。」
「お菓子をもらえる日ですからね!」
放課後、いつも通り補習をする為に化学準備室に向かっていたら、途中で藤真先生に会った。藤真先生は体育館へ向かう途中だったようで白衣姿ではなく、ジャージ姿だ。
背も高いし、すらっとしてるし、ジャージ着てるだけなのに凄く似合うなぁなんて思いながら藤真先生に声をかけた。
冒頭でも言ったように、今日はハロウィーン。なので私は朝からクラスメイトから大量のお菓子を貰っていた。お菓子は大好きなので凄く嬉しい。
「太るぞ。」
「いいんです、バレンタインデーとハロウィーンとお正月とクリスマスは何を食べてもどれだけ食べても許されるんです。」
わかりましたか!と藤真先生に近づいて力説したらクスクス笑われた。
まぁ何て失礼なんでしょう!キーッとなったが、ここは廊下のど真ん中だし、それ以前にこの気持ちをどう表現して伝えればわからないしで結局何も言えなかった。
「俺は部活に顔出してちょっと指導してから行くからな。いつも通り適当に問題解いとけ。1時間くらいで行くから。」
たぶん、と藤真先生は私に背を向けてひらひらと手を振って体育館に向かっていった。
後姿も無駄にカッコいい、くそう・・と1人勝手に悔しくなったが、このまま廊下でボーっと立ってるわけにもいかないのでとりあえず化学準備室に入った。
荷物を下ろして、その横の椅子に座る。机に向き合って座っていたけれど、このまますぐ勉強する気になれなくて窓を見た。窓際にある棚の上に、藤真先生がいつも餌を上げているグッピーの水槽がある。
この前、先生が当たり前のようにグッピーの水槽に塩を入れていたから、ビックリして「何してんですか!餌じゃないですよそれ!」と叫んでしまった。
でも藤真先生によると、グッピーはアルカリ性のお水が好きらしくて、水槽を洗って水を入れ替えたら少量の塩を入れるらしい。さすが生物の先生ですね、と褒めたら「まぁな!」と全く謙遜せずに受け止められたのを思い出して1人で笑ってしまった。
思い出し笑いをしながら鞄から問題集とノートと筆箱を出して適当に問題を解く。これだけ鬼のようにやらされているのに未だにわからないところの方が多いから挫折したくなる。
うーあー、といつも通り1人で悩んで苦しんでいたら、ガラリと化学準備室のドアが開いた。いつもこの瞬間はドキドキする。別にいけないことをしてる・・わけでもないけど、藤真先生以外の先生が入ってきたらどうしようとか、そういうことを考えてしまうんだ。
「進んでるかー。」
「微妙ですー。」
ひょっこり顔を出したのは藤真先生だった。よかった、と胸を撫で下ろしながら時計を見ると、いつの間にか時間は過ぎていたようで最後に藤真先生に会ってから1時間半は過ぎていた。
「遅くなって悪かったな。俺も混ざってバスケやったら楽しくなって時間忘れてた。」
「監督も生徒に混ざってバスケするんですか?」
「あたりまえだろ。コテンパンに伸してやるけどな!」
俺VSレギュラーとかよくやるぜ、俺が楽しいから。と藤真先生はタオルで汗を拭きながら冷蔵庫へ向かった。
俺が楽しいから、という理由は何とも藤真先生らしい。まぁでも同じクラスのバスケ部員が藤真先生は強いし、勉強になるから藤真先生とバスケするのは楽しいと言っていたっけ。
私はそれが藤真先生の凄い所だと思う。仮に生徒が「嫌だ」と思っていることでも一緒にやってくれて、一緒にやることによって楽しくしてくれて、いつの間にかそれが身についているのだから。
「なに考えてんだよ百面相。」
「・・そんな顔してないですー。」
「してましたー。」
俺は見ましたー、と子どものように反論する藤真先生はやっぱり先生には見えない。「本当、先生っぽくない先生ですね」と言ったら「褒め言葉として受け取っておく」と返された。
「それよりなまえ。今日は何の日だ?」
「へ?・・・・だからさっきも私が言いましたけど、ハロウィーン・・。・・・・まさか。」
「トリックオアトリート。」
笑顔で手を出す藤真先生に「やっぱり・・!」と心の中で叫びながら私は急いでカバンの中からチョコレートを取り出す。
はいどうぞ!と藤真先生の手の上に置くと「サンキュ」とチョコレートの包装をはがして口へ放り込んだ。
「あ、これ美味い。」
「でしょう?私も好きなんです。」
それでちなみに私がもしお菓子を持っていなかったらどんな悪戯をする気だったんですか、と問いかけたら藤真先生は一瞬私を見てから立ち上がり、後ろの棚から紙を取り出した。
「俺特製、地獄プリント。しかも明日まで。」
「(ひいいいい!)」
よかった!お菓子持ってて本当によかった!藤真先生の特製プリント本当に鬼なんだもの!と焦りに高鳴ってしまった心臓を抑えていたら藤真先生はニヤニヤしていた。
まぁいつかやらせるけどな、と不吉なことを言いながらプリントを棚にしまうと、藤真先生は自分を指差しながら私に問う。
「なまえ。俺に聞くことは?」
「え?」
「ほら、俺もさっき聞いただろ。」
「・・・・あ、トリック・・オア、」
トリート?と若干質問気味に言うと、それは合っていたようでにっこりと笑んで「ちょっと待ってろ」と藤真先生は私に背を向けて冷蔵庫の方へ向かった。
カラン、と冷蔵庫の扉を開けて何かを取り出すと藤真先生は両手が塞がったようで長い足で冷蔵庫の扉を閉める。
そして振り返った藤真先生の手には、
「・・・・プリン?」
「そ。俺と花形特製『化学準備室で作れました、かぼちゃプリン』。」
うまいぞこれ!と私の前にコトっとプリンの乗ったお皿が置かれた。もう1つは先生用で机を挟んだ向かい側に藤真先生も腰を下ろす。
「いいよなプリン。化学室にある道具で作れちゃうんだぜ。」
そう言いながら藤真先生はプリンをスプーンですくって口へ入れた。味に満足しているようで「美味い」と笑顔を咲かせる。
私もドキドキしながらスプーンを握ってプリンをすくうと、口へ運んだ。
「美味しい・・。」
口に入れた瞬間にかぼちゃの香りが広がった。かぼちゃと卵の濃厚な味も絶妙で、しかもかぼちゃが入っているのに滑らかだ。
私が「美味しい」と言って藤真先生は凄く嬉しそうに笑ってくれるものだから思わずドキッとしてしまう。
ずるいなぁ、なんて思ったけどそれは自分の心の中だけに閉まってヘラリと笑った。
「本当に美味しいです。花形先生にも明日お礼言っておきますね。」
「おう、そうしとけ。半分以上花形作だからな。」
にっこりと笑みながらプリンを口に運ぶ先生にクスリと笑いながら私もプリンを口へ運んだ。
このままだと雑談で今日の補習はなくなりそうだ。
ハロウィーンの物語
(かぼちゃアイス今度作るか!) (いいですね手伝います!)
**** 藤真はサプライズで相手を喜ばせるのが好きだと思う。もちろん逆にサプライズされるのも好き。というか楽しいことが好きだと信じている。 ちなみに化学室でプリンは大き目のビーカーをボウル代わりにして、器は小さなビーカー。蒸し器は鍋に低い三脚台入れて作りました。こし機だけはザルみたいなやつを家庭科室から拝借。家庭科の先生にバレたら安定の高野のせいにします。
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