「なまえ!」

「んー?」


昼休み、お弁当に入っていた唐揚げを口に運んでいると、購買から帰ってきたらしい桜木君に後ろから声をかけられた。


もぐもぐ口を動かしながら振り返る。そこにはとっても嬉しそうな顔をした桜木君の姿があった。桜木君とは楓を応援しに行ったときに仲良しになったのだ。


クラスが違うのにどうしたの?と唐揚げをかみながら首を傾げると桜木君は更に深く笑んだ。



「これドーゾ!」

「あ・・これ・・・。」


差し出されたものを見ると思わず頬が緩んだ。



「桜木君これもしかして・・!」

「前食べたがってたから、ついでに買ってきた!」


食べていいぞ!と桜木君は水戸君達と一緒に自分用に買ってきた焼きそばパンを頬張る。

あんまりにも嬉しかったから「もう桜木君最高だよ!ありがとう!」と叫ぶと「はっは!自分天才ですから!」と桜木君も満更じゃ無さそうに笑った。



この数時間後に事件は起こったのだ。










「・・・そんな怒んな。」

「だめ、怒る。」


学校から帰ってきた私は、珍しく部活が無い楓の家に直行で遊びに来ていた。一緒に放課後帰れてすごく幸せでした。過去形です。


だって私は今凄く怒っている。

私を怒らせたのは楓で、怒ってる原因は私が昼休みに桜木君から貰ったパンを楓が食べてしまったからだ。

いつもお互いの鞄から勝手にお菓子やパンを取っているので、何も知らない楓は私に断らずに食べてしまったのだ。



「腹減ってたんだよ。」


育ち盛りの男の気持ちを理解して欲しいと楓は、不機嫌に机にぐだっと突っ伏している私の機嫌をとるように、私の頭を不器用に撫でた。


わかってる、わかってるよ。いつもお互い好きにお互いに持ってる食べ物を食べてるんだから。楓はいつもと同じ行為を同じようにしただけなのだから。

でもでもでも!と私はどうしても今回だけは「いいよ気にしないで」と言えない。



「あれ、学校の1日30個限定パンだったんだよ。」

「あぁ・・、だから美味かったのか・・・。」

「・・・!」


しみじみと悪気がなさそうにボソッと呟く楓に軽く殺意を感じた。

器の小さい女と言われても良い。

でも今回は・・今回のパンだけは!譲りたくなかったのよ!



「せっかく高校入って初めて手に入れたのにー!」

「また買えば。」

「そんな簡単に手に入るパンじゃないの!」



知ってるでしょ?と私は頬を膨らませた。

楓が食べてしまったパンは購買が近い3年生や、足の速い運動部の人達がダッシュして買いに行き、5分足らずでなくなってしまうパン。

その名もアップルカスタードデニッシュ。

デニッシュはサクサクで、中にあるリンゴはほど良く甘酸っぱく、それを包むカスタードはほど良く甘い。

調理部が購買の為に開発した最高のパンなのだ。

それを食べられてしまったショックは相当大きい。すごくすごく食べたかった!

そう楓に訴えても「ふーん」としか返してくれないことにも絶望した!



「せっかく桜木君が買ってきてくれたのに・・・。」

「・・・む。」


はぁ、と私はため息をつきながらパンが入っていた空の袋を指でつまむ。

ちらり、と楓を見たけどそんな私の様子を見て何故か一気に不機嫌になった楓は私からプイッと子供のように目を反らした。



「美味かった。」

「な・・っ!」


子供のようにわざと小さい声でボソッと言う楓にめちゃくちゃ腹が立った私は思いっきり立ち上がる。



「楓のバカ!」

「俺が悪かったのは認める。けど、なんでどあほうが出てくる。」

「どあほーは楓でしょうが!」

「違う、桜木。」


わかってるよそんなこと!と言い返してやりたくなったがそうすると違う方向へヒートアップしそうなので私はグッと堪える。

そしてなんて言い返してやろうと一瞬唇を噛んだら、楓は座ったまま立っている私の手を握った。



「ん。」

「ん・・・?」

「座れ。」



ここに、と楓は自分の目の前の床をポンポンと叩いた。

イヤです座りません何故なら私は今怒っているんです、と言い返そうとしたらそれを楓が読んだのか私の手を引いて私を無理矢理座らせる。



「ちょ、楓・・・・、」

「俺が明日買ってやる。」

「へ?」

「限定パン。俺が、買ってくる。」


だから機嫌直せ、と私の頭をポンポンと撫でた。


いつもは私が「はいはい、しょうがないなぁ」って譲歩する立場なのに、今日は楓に譲歩されてしまった。

譲歩されてしまったから、今まで自分がどうしようもない事で怒っていたことに恥ずかしさを感じてしまう。パンごときでなんでこんなに怒ってたんだろう、と不思議な気持ちになってしまった。

私の表情を見てそれに気づいたのか、楓は私の頭をまた更に優しく撫でてくれる。

不器用なくせに、優しい優しい楓が大好きなのだと再確認してしまった。



「ごめんね楓。」

「ん。」

「明日よろしくお願いします。」

「任せろ。」


俺のスピードに勝てる奴はいない、と楓はすごく自信満々に口端を少し上げて笑った。




君のためなら、何でも
(欲しいものがあったら俺に言え。どあほうなんかに貰わなくていい。)
(・・・・楓もしかしてヤキモチ焼いてたの?)
(・・・・・・。)
(ぎゃああ痛い痛い!抱きしめてるの力!強い!ごめんて!)

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花道には負けたくない流川氏。

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