「花火きれーねぇー。」

「・・・微妙。」

「えぇ・・・。」



花火をしよう。

そう言い出したのは私だった。


部活で忙しい宗ちゃんと休日を過ごせることは滅多にないから、明日朝練がないのを狙って誘ってみた。

疲れてるのに誘っていいのかな、大丈夫かな、と色々不安いっぱいだったけれど少しは宗ちゃんと夏の思い出を作りたい。

今日だけ、今回だけ。そう自分に言い聞かせながらドキドキで宗ちゃんに「花火をしたいです!」と言ったら、宗ちゃんは私の無駄に気合いの入った大きい声目をぱちぱちさせたけど、すぐにいつも通りの優しい笑顔でいいよって言ってくれたんだ。



「うねうねしながら微妙な煙を出すしか能がないヘビ花火を綺麗って言う人初めてだよ。」

「・・・・。」


そして話は冒頭に戻る。

確かに。いや、じーっと見てだんまりしたままだったから何か言おうと思ったの。気を利かせてこの蛇花火の感想を言おうとしたの。そしたら「花火=きれい」の公式が頭に浮かんで思わずヘビ花火を綺麗って言っちゃったんだよ。

ていうか何でヘビ花火してるんだろう。何で数ある花火の種類からヘビ花火を選んでしまったんだろう。自分のチョイスセンスに脱帽してしまう。



「も、もっと花火っぽい花火しようか。」


どうにか気分と空気を変えるために地面に置いてあった花火の袋を宗ちゃんに渡したら、「じゃあこれやろうよ」と袋から出した花火を私に差し出した。



「あ、線香花火!」


宗ちゃんから渡されたのは、個人的に1番風流だと思う線香花火だった。静かに光が灯る線香花火はどんな花火よりも儚くて綺麗だと思う。

線香花火を手に取りながら「花火らしい花火ですね!」と宗ちゃんに言ったら「でしょ?」と宗ちゃんがライターで火をつけてくれた。

火がついた先からどんどん膨らむ。

落ちないようにと一生懸命指先に集中した。最後まで落とさずにいられたら良いことがあるっていうしね。



「・・・宗ちゃん?」

「ん?」

「じ、じっと見られると照れる。」


良いこと起こってほしいな、なんて思いながら線香花火に集中しようとしたけど、無理だった。宗ちゃんがめっちゃくちゃ私を見てくる。横からすっごいニコニコ見てくる。全くもって集中できない。このままじゃ私の線香花火のパチパチしてる部分が落ちてしまう。

宗ちゃんからの視線に私はチラッと横目で宗ちゃんを見た。

線香花火に神経をつかっているのに見られると集中出来ないですよ!と主張したのに「そうなの」としか返してくれない。悲しい。



「私なんか変?」

「……いや?きれいだなと思って。」

「・・・っ!ってうわっ!」


あんまりにもいきなりサラリと歯が浮くようなことを言うから驚いて体を震わせた瞬間に膨らんでいた線香花火を落としてしまった。



「・・宗ちゃ、」

「花火が。」

「・・・・・。」



きれい=花火。

うん、そうだよね。その公式はわかるよ、私もさっき浮かんだし。

それはそうかもしれないけど、あのタイミングであの時間差攻撃はひどい。思わずうぬぼれちゃったじゃないか。

恥ずかしくて、真っ赤な顔して睨んでやっても宗ちゃんには全く効果がない。



「さっき花火微妙って言ったじゃん!」

「それはさっきの話。今は線香花火でしょ。」


ヘビ花火なんかと一緒にしないでよ、と宗ちゃんはにっこり微笑んだ。



「それに、」

「?」


宗ちゃんは持っていたライターを地面に置いてその手をそのまま私の頬に持ってくる。


「なまえに似合う言葉は綺麗より可愛いだと思うよ。」


その言葉と共に線香花火が落ちたように私の唇に宗ちゃんのキスが落ちたのです。



夏の思い出作り

(不意打ち・・!)
(ぼーっとしてるのが悪いんでしょ)

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